死神たちのリバ☆ゲーム
ディープ・クリムゾン・サフラワー⑥

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 『こうしん』って何? という疑問より、まだこの地獄を続けるつもりなのか、というゲッソリ感のほうが強かった。 「藤、我は寝所に参るぞ。コノエ殿をもてなしておくよう」  そういうと『宮様』と呼ばれた女性は、反論は許さないと言わんばかりに後ろを向いて立ち上がり、奥へと入っていった。  いや、ごめん、なにこの状況…… 「こちらへ」  藤が、ハテナマークをいっぱい頭の上に浮かべている俺を、隣の部屋へと案内する。部屋といっても、メインの部屋とは衝立で仕切られているだけであり、客間というよりは控えの場といった感じだ。 「なあ、あの人は誰だ?」  思わずそう訊いた俺の顔を見た藤が、一瞬怪訝な表情を浮かべる。しかしすぐに、不思議そうな顔つきに変わった。 「知らずにお越しになったのですか?」 「いや、実は道に迷ってしまって、ここがどこか聞こうと思って立ち寄っただけなんだ」 「まあ、呆れたことです。ここは上総かずさ親王の姫君のお屋敷でございますよ」  表情が更に驚きへと変わる。主と違って感情豊かな、気さくな子の様だ。 「親王? 彼女って、皇族?」 「そうですよ」  えっへんと胸を張る目の前の男の子。左右に分けられた髪がそれぞれ紐でくくられていて――みずら、というのだろう――なんともかわいらしいが、年は十二、三というところだろうか。 「にしては、屋敷が寂れているように見えるんだけど」  そう言ったとたん、藤の顔が悲しげな表情に変わった。 「十年前に御父上様がお隠れになられたので」  死んだってことか。あの姫君が子供の頃だろう。今は経済的に苦しいのだろうか。 「姫君に夫はいないのか?」  結婚相手がいれば援助も受けられるはずだ。皇族の血筋となれば、言い寄る男も多いだろう。年齢がいまいちわからないが、声からするとまだ二十歳にはなってなさそうだ。 「へ? あ、い、いや、そうですね……」  藤がなぜか言いよどむ。そのことがとても言いにくいようだった。  なんなのだろう。平安時代なら、側仕えの女性たちの待遇も、ご主人様の経済状況に左右される。ご主人様が『いい男』をゲットするよう計らうのも、周りの仕事だ。まあ、ここが平安時代の日本なら、だけど。 「何かあるのか?」 「あるといえば、あるようなないような」 「どっちだよ」 「じ、実はですね、以前にお二人ほどお越しにはなったのですが、その、と、途中で、お帰りになられまして」  なるほど、男に逃げられた、か。  平安時代の恋愛は、確か、男が何回か女の家に通いお互いに気に入ったら結婚に至る、というまどろっこしいものだったはずだ。まあ、男のほうが『押し倒す』ことも”ありあり”なのだが。  ふと、月の光の中に見えた、あの女性の仄かに蒼い瞳を思い出した。 「なんでまた?」 「それが」  急に小声になって、藤が俺の耳元に口を寄せる。お前はおしゃべりな家政婦か――まだ子供のようだというのに、先が思いやられるというもんだ。 「宮様のお声を聴いたとたん、急に『用ができた』とおっしゃいまして、そのまま」 「なんだよそれ」 「お顔を合わせませんので、殿方はお声などでも、良し悪しを判断いたしたりするものなのですよ」  なるほどね……まあ、あのハスキーボイスだ。声だけ聴けば、男の子っぽいと思われても仕方がない。 「で、でも、宮様は、とても美しゅうございますよ」  なんとなくとってつけたようなフォローにも聞こえるが、確かに、扇子の上から覗く目を見れば、その言葉にも納得できる。 「そんなに、すごい顔なのか?」 「ええ、ええ、それはもう。色白ですし、ま、ちょっと青白いですが。お鼻は高うございます。ちょっと象さんのように下に垂れてるかな。目鼻立ちがくっきりしてございます。ちょっと面長だし、ちょっと額が広いかも。あ、ほら、ほかの方にはない容貌というか、女性離れしているというか……あ、でも、ほら、髪はとても美しゅうございます!」  藤は、握りこぶしをぎゅっと握り、キラキラした目で、最後の部分だけを俺に強調してきた。  お前、自分のご主人様のことをよくそこまで無茶苦茶言えるな。『すごい』の方向が明後日を向いている。  それに、女性離れ? どういう意味だ…… 「藤、いらぬ話はせぬがよいぞ」  衝立の向こうから、鋭い声がかかった。小さく驚きの声を上げ、藤が飛び上がる。 「も、申し訳ございません。近衛様が宮様にご興味をお持ちになられておりますれば」  いや、ちょっとまって、どこでそうなった。坊や、人に責任を押し付けるんじゃないよ。 「もうよい、下がっておれ」  姫君のその言葉に、藤は「はい」と返事をすると、またぱたぱたと音を立て、廊下の奥へと下がっていった。

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