死神たちのリバ☆ゲーム
ピュア・ホワイト・ナイチンゲール③

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 唇はやや灰色がかった薄いピンク色。お茶で湿り気を帯び、仄かに赤みが増す。モノトーンの中で、瞳と唇だけに色彩がある。  ……というか、そのお茶どっから持ってきたんだよ、お前。 「えーっと、呼んだ覚えは、ない、です」 「ボクはその呼びかけに応えて、キミの前に来てあげたんだよ。人間に召喚されるのは何十年ぶりかな」  そう言いながら、目の前の青年は懐古的な笑みを浮かべた。  ……人の話を聞いてないな、こいつ。 「というか、お前いくつだよ」 「初対面で年齢を聞くとは、デリカシーが無いね」 「あのな、女じゃないんだから」 「ふふっ、やっぱり、人間はそういうことにこだわるんだね」  目の前の青年は、ひとつ肩をすくめると、右手でそっと頬にかかっていた髪をかき上げた。 「まあいいか。さて、望みを聞こうじゃないか。ボクを召喚した人間の望みを叶えるというのが、古からのボクたちと人間との契約だ。ボクにできることなら、なんだって一つ、してあげよう」  青年が人差し指を立てて、ウィンクを一つ。  なんでいきなりそうなるんだろ……  そう思った次の瞬間、俺の頭に理解という名の天使が降り立った。  はっはーん、こいつの正体みつけたり。  あれだろ。「おめでとうございます! 当選しました!」とかいきなりメールを送り付けてくる、アレ。  ……メールじゃなくて直接来るあたり、かえって斬新だな。  それでだ。訳のわからない会話をしつつ相手の望みを聞き出したあと、ウルトラCの理屈展開で俺に何か買わせようという、新手のセールスマンだな。    まさに、セールスの手口ここに極まれり、だ。 「お前、神様なんだよな」 「ああ、そうだね」 「じゃあ、一昨日まで時間を巻き戻してくれ」 「うん、無理だよ。時間は戻せない」 「じゃあ、試験に合格したことにしてくれ」 「確定した事実は覆せないね」 「じゃあ、別れた彼女とよりを戻させてくれ」 「ボクは全知でもなければ全能でもない。人間の心は操れないよ」  とりあえずの無理難題をぶつけてみたが、予想以上に素で返されてしまった。  というか、まったくもって役に立たない召喚獣だな、こいつ。 「んじゃ、俺と付き合って」  女のセールスマンなら、デート商法ってのも考えられるが、こいつは男だ。そんなことは無理に決まっている。  こいつが音を上げるまでひたすら無理難題をふっかけてやろう。  不幸のどん底にいる俺に弄ばれて後悔するがいい、はっはっは。いい気味だ。  そう思って発した言葉だったのだが、青年はその言葉を聞くと、口元に指を当てて何かを考え始めてしまった。そしてやや上目遣いに俺を見て、こう言った。 「『付き合う』とは、何をすることなのかな?」  改めてそう訊き返されると、返答に困ってしまう。  付き合うって何なんだろう。  昨日まで俺は、彼女と付き合っているとばかし思っていたが、もしかしたら彼女は最初から友達遊びの延長でしかなかったのかもしれない。男はいつの時代も、勘違いの塊だ。  付き合う、か。  行為で決まるのか、それとも意識が決めるものなのか。 「なるほど、キミは恋人が欲しいんだね」  おっと。強引な理屈展開が始まったようだ。ここから妖しいグッズの押し売りへと持ち込む気だな。  これを身に付けるだけで、女の子にもてるわ、宝くじに当たるわ、もうウハウハです! みたいな。  そうはいくか。 「できるのか?」 「ボクに出来るのは、魂の選別と収集。それだけだよ」  だめだこいつ。ガチで湧いてる。  話をファンタジーに戻してどうするつもりだ。セールスしろよ、セールスを。 「それ、先に言うべきじゃ?」 「ははは、悪かったね」  青年は笑いながらダイニングチェアから立ち上がると、俺のほうへと近づき、リビングテーブルの上にあった受験票を手に取った。 「こういうのはどうかな」  一通り見た後、ゆっくりと視線だけを俺に向ける。流した深紅の瞳が、悪戯っぽく揺らめくのを見て、俺の息が何故かつまる。 「ボクを手伝わないかい? コノエくん」  そして、顔を俺に近づける。ふわりとした香り――どこか懐かしい、木と土の香りが俺の鼻孔をくすぐった。

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