二子玉川園駅から少し歩いた二つ目のバスターミナルに、多摩川園駅、目黒駅行きのバス停があり、その途中に地下一階から三階までモルタル作りの古いゲームセンターがあった。 この話では、二子玉川園駅と書いてあるが、現在は二子玉川駅だ。 作者が小学生の頃には、二子玉川、多摩川の両駅には、園がついていて、その名の通り、遊園地と映画館があった。 子どもの頃はこの遊園地に家族でよく出かけ、映画館にはドラえもんや東映漫画祭りをよく見にいったものだ。 90年代初頭はさすがに遊園地はなくなっていたが、ナムコワンダーエッグというゲームメーカーの作った遊園地が運営され、映画館跡には確かレストランがあったはずだ。 RIZEの出来た現在は町の形ごと以前とはまったく変わってしまったが、当時はバスターミナルが二つあり、多摩川園行きと目黒駅入りのターミナルは駅から離れた遊園地の方にあった。 話を戻そう。 タバコの臭いと電子臭と汗臭さが混ざりあった独特の臭いのする、狭くて汚い昔ながらのゲーセン「ゲームインタマガワ」。通称インタマ。 そこでひたすらデス=アダーを倒すための旅を続ける少年が一人。 「なに現実逃避してんだよ」 吉川に小突かれながらひたすら骸骨の戦士と格闘している。 「デスアダーを倒さないとダメなんだよ~」 完全にいっちゃってる目でアップライトのモニターに集中している。 研究レポートと日々の授業と部活に追われて、なかば自暴自棄になった沖田が全身鎧で大剣を振り回すハイネケン准将と格闘していた。 吉川はといえば、学校に戻ってみると沖田の姿がなく、自動車部に顔をだしていた藤木に聞いてインタマだと判明し、バイクでここまで来たのだった。 「ちょっと話したいことがあるんだけど」 「なんだよ」 ゲームに熱中している沖田にかまわず、横浜で見つけた件の工作員、カーラの事を一方的に話す。 「な、なんだってぇえ!!」 沖田がゲームから立ち上がって叫んだ。 「だからさ、今、渋谷のホテルに軟禁してんのよ」 「ラブホに軟禁?!」 「アホ。違うって、東急のシティホテル」 「なんか、軟禁とか響きが卑猥だ」 エリサを襲ったロシア女に応急処置を施した沖田はそのまま車を運転して病院へと運ぼうとした。 しかしカーラが公の場に出ることを頑なに拒否したので、仕方なく都内にあるホテルへ運ぶことにしたのだった。 途中、部室に転がしてあったイギリス軍用の医療キットを長谷川から受け取り応急処置をした上で運び込んだ。 カーラと名前だけ名乗ったその女はかなり衰弱しておりホテルに運び込むと、慣れた手つきで自分で治療を行うと気を失ってしまったのだった。 「なんでまたそんな危ない女を助けたんだよ」 「なんでだと思う?」 「巨乳で白人の美人だから」 「あたりー」 吉川が嬉しそうに答える。 沖田はため息をつくと座り直してセブンスターに火を付けた。 「マユミが嫉妬すんぞ」 「俺は外人の巨乳が好きなの」 「美人だもんな。あのロシア」 「だよねー」 「・・・」 バカを見る顔で吉川を見つめる沖田。 「で、どうすんだよ。尋問にでもかけて首謀者でも吐かせるか?」 「尋問とか、いやらしいなお前」 と今度は吉川。 「また襲われでもしたら、いつまでも防ぎきれないぞ」 「拷問にでもかける?」 「いやらしいなおまえ」 お互いにバカを見つめ合う。 再びゲームを始めた沖田が、 「小坂が見張ってんのか?」 「ああ、そろそろ交代を送らないとな」 「まったく次から次へと…」 沖田が加えていたセブンスターを乱暴に灰皿にこすりつけた。 吉川が隣の台にコインを入れるとコラムスをスタートする。 「ところで、エリサちゃんもかわいいよな」 「ああ」 「何、その気のない返事」 吉川が沖田飲んでいたドクターペッパーを取ってグビリとやる。 「なんか影がある感じがな。気になる」 「お前まだ、アーイシャの事が忘れられないんだろう?」 そう言って横目で沖田を見つめる吉川にふざけた雰囲気はみじんもなかった。むしろ、やるせないいらだちを感じる。 「お前は忘れられたのか?あの樽爆弾が毎日降る街でみんなで図書館を作りながら血反吐いて訓練受けたことを」 コイン10枚でようやくデスアダーを倒した沖田が吉川の方に向いた。 ドクターペッパーを取り返し、新しいセブンスターに火を付ける。 黙ったままコラムスを続ける吉川。 沖田も画面に向き直ると、台に置いてあった50円玉を入れて、黙って再びゴールデンアックスを始めた。 To be continued.
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