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 どやどやと入ってきた日本のハイスクール達を見て、一瞬顔をしかめたカーラだったが、エリサの姿を認めると全身に緊張が走った。  かなりの出血量だったため、まだ立ち上がることすら難しい。  シーツを避け、ベッドに半身を起こすとエリサを正面から見つめる。  その姿、白いガウンの下から盛り上がる胸元を見て、男子校生達が色めき立ち、マユミが吉川の頭を思い切りひっぱたいた。 「何、騒いでんのよ。バカ」 「お、俺じゃないって、こいつら…」  吉川が頭を抱えて男子達を睨む。 「すげー美人じゃん」 「やっぱロシア人は美しいねぇ」 「お、俺、ロシア語まじめに勉強するわ」 「その前に、英語の赤点なんとかしないとね」 「うるせぇ。俺はロシアに行くんだよ」 「行ってこいよ。ボケ」  わいわいと勝手に色々としゃべり出す。  そんな中をつかつかと前に出ると、エリサはカーラのベッド横にある椅子に座った。  本人の希望もあり、カーラの入っている部屋は最上階のスイート。カーラから渡された小型ジェットもチャーターできるブラックカードで部屋をチャージしたのは吉川だ。  沖田達全員が入ってもかなりのゆとりがある。各々、多少の警戒はしつつも腰を落ち着けた。  皆が落ち着くと、エリサが緊張した面持ちでカーラに話しかけた。  ロシア語でやり取りされること数分。  ちんぷんかんぷんの沖田達一行。 「あのさぁ、エリサ」  たまりかねて沖田が口を挟んだ。 「翻訳してくんないかな」  頷いたエリサが自分とカーラの話を日本語にしながら話を進めた。   「なるほどねぇ。あの女はロシアで科学的に作られた魔女ってわけだ」 「もともと素質はあったって言ってたな」 「映画みたいだなほんと」  ホテル一階のラウンジで、沖田達一行はカーラのツケでお高いコーヒーを楽しんでいた。  マユミ、智子はアフタヌーンティーセットにして、段々に詰まれたケーキやスコーン、クッキーと一緒に香りの良いTWGのアールグレイを楽しんでいる。  エリサと吉川は部屋に残り、エリサの能力でカーラの回復を図っていた。  既に諦めたのか、青白い顔をうつむけつつこちらの質問に答えるカーラに対して、男子からは大分同情票が集まっている感じだ。 「一人娘が人質に取られているって本当かね」 「夫は逃げる途中で撃たれて行方不明ってのも、更に悲しいよね」  男子連中がやんや言っている中、マユミ、智子は意外と冷静だ。 「嘘じゃないのその話」 「ああいう女は切羽詰まると平気で嘘つくわよ」  肩をすくめる男子達。 「いやー女の嫉妬は恐ろしいですな」 「吉川がとられそうなんで心配なんでは」 「なに?!そういう関係なのか?」 「そういうってどういう関係だよ」  マユミが勝手にやんや言い出す男子達をにらみ付ける。 「しかし、どーしたもんかな。エリサは学内でなんとかなるけどね。あの女までとなるとちょっとなぁ」  沖田が咳払いして話を戻した。 「回復したら、自由にどこでも行ってもらえば良いじゃない」 「まあ、そうなんだけどさ。旅は道連れ世はなんたらって言うじゃん」 「同情したわけ?」 「まあ、話を信じるならね」  沖田が二本目のキャメルに火を付ける。 「あのカーラとかいう女をかくまうのに賛成の人ー」  沖田の適当な質問に男子全員が馬鹿面で手を上げる。 「だ、そうだ」  沖田がマユミに振り返る。 「ほんと、アホばっかね」  呆れたようにマユミがため息をついた。  カーラ自身の能力とエリサの能力を使って傷口の回復と多少の血液量増加を行ったものの、体力の回復にはほど遠く、治療が終わるとカーラは気を失うように眠ってしまった。  エリサが額の汗を手でぬぐって椅子に座り込む。 「落ち着いたら、下行ってみんなとお茶でもしてきてよ」  吉川が気を遣ってエリサに言った。 「一人で大丈夫?」 「あと二人くらいこっちに来てもらうよ」  吉川が小型の無線機を取り出して、ラウンジでお茶をしている連中に連絡を入れる。 「二人、こちらにあがってもらうよ」  エリサは頷くと髪型を少し整えて立ち上がった。  その瞬間、凍り付いたようにカーラを見つめる。音声を介さない意思伝達。 「?」  不思議そうに見つめる吉川。エリサの口が「わかったわ」と言った気がした。  何もなかったように吉川に頷くとエリサはドアを開けて外へ出た。  やれやれといった感じで吉川が一息つく。  バースペースに置いてあるリカーラックの中から一番高そうなマッカランを取り出し封を開ける。冷蔵庫から氷とソーダを出して、ロンググラスに丁寧に指一本分のウイスキーを注ぎ、ゆっくりとソーダで割って一回ステアする。  一口飲んでチラリとエリサが出て行ったドアを見つめた。 「あんまり、沖田が悲しむようなことをしてくれんなよ」  独り言のようにつぶやく。  小生意気にも冷えたウィスキーの香りとソーダののどごしを楽しんだ。  すると、 「何故助けた?」  突然話しかけられた吉川がびっくりして辺りを見回した。  声の主がカーラとわかり、ベッドの方を見るが、カーラはベッドの中で眠ったように動かない。 「何故、私を助けたのだ」  声が自分の耳ではなく、胸の辺りで音声となって響いている。 「気味の悪いことしてくれんなよ」  わざと余裕を見せて足を組むと、ウィスキー&ソーダを一口グビリとやる。 「あのまま放っておいてくれれば、私はじきに夫と娘の元に行けたはずだ」  悲しみの感情は氷色に濡れて伝わってくる。  既に夫と娘は殺されたと思うその憎しみと取り返しの付かない後悔の感情。 「まだ、死んだと決まったわけではないだろ」 「平和な日本のハイスクールにはわかるまい。夫は殺され、私の娘は実験台の上で生きたまま末端神経まで解体されて検証されているだろう。そういう世界なんだ。貴様達のように平和だけを謳歌している連中にわかるわけあるまい」  憧憬とも怒りとも、嫉妬とも思える感情の起伏が、吉川の胸の奥に直接響いてくる。 「では、はっきり言おう!」  吉川が一呼吸置くと、 「俺は巨乳の美人のロシア人が大好きなんだ!!」 「?!」 「俺は巨乳の美人の外国人が大好きです!!」  胸を張り上を見上げ、吉川ははっきりと言い切った。しかも二度も。  自分の好きな物を好きと言えることはなんて大切なんだろうと思わせるほど、みじんの邪心?も感じさせない純粋な言い方だった(なんだそりゃ)。 「なっ」  と言ったきりカーラの思考が停止する。それはそうだろう。 「”巨乳”、”美人”、だけで助ける価値がマックスなんだよ!だから助けたの!!」  カーラに対する憐憫の感情などみじんも感じさせない、ある意味、超絶無慈悲な言い方だった。 「なぜ、私を助け・・・」  カーラの意識が遠のいていくのがわかる。やがて胸に響いていた声が止んだ。  吉川がウィスキー&ソーダを乱暴に飲み干した。 「あんたみたいな女を、昨年中東で見てんだよ」  一息置くと、 「一人で背負っていこんで自滅するバカはもうこりごりなんだよ。あんたはそんな目をしていたからさ。悪い奴には見えなかった」  ドアフォンが鳴り、乱暴にドアが叩かれる。 「おーい、来たぜぇ」  ドアの外で長谷川と長島の声がした。  軽く肩をすくめてグラスをカウンターに置くと、吉川はやたら豪華に作られたスィートのドアへと向かった。 To be continued.

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