遊ばれ女と婚活
手軽な関係

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『チャップリン』で擦った揉んだすったもんだした末に、マッチングした有希子と喜多はテーブル席で仲睦まじく話し込んでいる模様もよう。  お邪魔虫の翠は、カウンターに席を移して、スマートフォンの着信履歴を追っている。  本多からは着信もメールもない。  昨日の今日では連絡がないのは当然で、恋人でもないので文句も言えない。    市野も渋々、二人の交際を認めたが、出会いは伏せるよに進言していた。    マッチングアプリは流石に、世間体が悪いのだろう。    切り替えの早い翠は市野とも話がしたかったが、それだけ言うと早々に帰っていった。  翠は、新しい出会いは大切にしたい派なので残念でならない。 (折角、二組カップルなのに……)  翠は下唇を突き出し、不満顔だ。    いけ好かない奴だけど、あそこまでのイケメンはそうはいない。  しかも、海外在住のオプション付きだ。  ライン交換ぐらいしたかったのが本音だった。    最終的に翠は、太一とお喋りするつもりで席を移したが、太一はライブの打ち合わせで事務所にいるらしい。    翠はBGMに耳を傾けながら、無作為にスマホを捲っている。めくって 「さっき、マスターにも聞いたんですけど……あの二人、マッチングなんですかー」  スマホに陰が揺れたと思うと、カウンターの中からアルバイトのが話しかけてきた。   シルバーに染めたボブは毛先だけピンクで、色白な肌によく似合っているが、もう少し化粧をなんとか出来ないかと職業病が疼く。  カラーコンタクトの瞳に重そうな付け睫毛。不自然な涙袋で近距離でも素顔の想像が出来ない。    翠は小首を傾げてやり過ごした。 「あーマスターと同じ反応ー」  若い子は尾鰭おひれをつけて噂するので、下手な事は言えない。 「じゃぁ、お姉さんは?」  翠は首を横に振る。 「貴女は?」 「うん、ヤリモク。私が《良いね!》付けた男、見る」  臆面もなく言いきると、女の子はジーンズの尻ポケットからスマホを抜いて、操作を始める。    マスター不在で羽目を外したいようだ。 「結構、いるんだ~」  あと、一時間程で閉店だが、太一に挨拶してから帰りたい。  翠は、暇つぶしに見せて貰う。    アルバイトの娘は、お勧めだからと、マッチングアプリの活用方を翠に教えてくれながら、サクサクと男の写真を開いていく。     見るからにヤリチン男ばかりで呆れてしまう。     そして、5人目の男に翠は言葉をなくす。  少し、斜に構えたスナップは紛れもなく本間亨だ。 「この人、良いんだけど……少しおじさん」  翠はスツールから尻を滑らせ、立ち上がる。 「へぇ~セックス上手そうだから、会ってみたら……」  去り際に教えてあげた。 (明日は休みだけど、実家に料理を造りに行くから遅くなりたくない)  翠は頭の中で念仏を唱えるように、繰り返す。  そして、翠は有希子の達のテーブルに戻ると、電車の時間を理由に帰ると告げた。 「市野さんも置いてったから……」   翠が渡した3,000円を躊躇いなく喜多が受け取ると、有希子が肩をすくめて笑って見せる。    扉を開けて外に出ると、一つ星の空を見上げて溜息をついた。  不覚にも涙が滲む。 「翠、打ち合わ終わって彼奴やつら、店で飲んでるから、ちょっと事務所寄ってかねぇ。久しぶりなのに、ろくに話もしてねぇじゃん」   店の通用口から顔だした太一が声を掛けてきた。  振り向くと手招きされる。  翠は人差し指で目尻を押え、器用に涙を隠すと、わざと緩慢かんまんな足取りで引き返す。 「もう、眠いんですけど~」  翠は太一の目的を十分承知のつもりだったが、通用口の前で、訃と……聞いてみたくなった…… 「先輩、奥さんいるでしょ」 「翠、何?警戒してる。自意識過剰だって……」   太一は女心の痛い所を衝いてくる。  自意識過剰の勘違い女とは誰でも思われたくない。 「あんな、ハイスペックなお兄さんといたら、俺なんかと話も嫌か?」  卑屈な言葉で翠の憐憫を誘う。  何もかも承知の上での言葉だ。 「まさか……あの人達とは話し合わないよ……でも、ほら、翠さん前科者だから……」  茶化すように応戦したが、肩を抱かれる。 「あのイケメン兄さんも、翠の色気にイライラしてた……」   耳元で囁きながら、見た目より柔らかな顎髭で頬を擦る。  もう何を言われているかもわからない。 「翠~ちょっとだけ、咥えてよ。もう起ってるから」  掌を起立に導かれると、既に湿りを帯びた場所がパクパクと蠢き始める。   火照た体が冷気に包まれると、ガチャリと鍵が閉められた……

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