遊ばれ女と婚活
婚活パーティー

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 前触れも無く、金木犀の香りが鼻を掠めた。  こうの鼻もヒックとする。  幼児でも金木犀は香しいかぐわしいとみた。  だからといって、翠の腰に絡ませている腕は離れない。 「煌くん、お婆ちゃんと帰るよ」  『けやき』の店先で煌は稲垣の差し出す手を拒否している。    金木犀の香りは、もう消えている。    そんな遣り取りの最中、翠のスマホが鳴り出した。  すると、煌は突然の音に驚いて稲垣に向かって駆け出していく。  やはり、いざとなったらお婆ちゃんのようで、手をつないで歩き出す。  翠はスマホを耳に当てると、後ろに続いた。 『行政主催の婚活パーティーに参加して欲しいんだけど』  架電者は母だった。 「嫌だ」  この親子の会話は早い。  タップしてからタップするまで秒で終る。 「どうしたの?」  冷淡な翠に物言いに、稲垣が振り返る。 「母が、婚活パーティーに出ろって……断りましたけど」  煌は今、お婆ちゃんの胸に顔を埋めて抱かれている。  甘ったれなのだ。 「私のせいで懲りちゃったのかしら、ごめんなさいね」    翠は稲垣は悪くないのに、よく謝る人だと思う。 「そんなことは……」 「じゃあ、出れば」  変わり身が早い。 「えっ?」    稲垣は体を揺らしながら、躊躇うためらう翠に意見する。 「結婚してみたいのなら、来る話は断らない方がいいわよ。それだけ今はご縁があるってことだから……ねぇ~」  稲垣は '今' をやけに強調すると、煌に同意を求めてるように頬ずりをしている。 「30歳を過ぎるとピタッと話が来なくなるのよ」  その話は先輩からも聞いたことがある。  合コンもそうらしい。  仕事関係の男性も急に誘ってこなくなり、自分が30歳を過ぎたことを実感するそうだ。 『欅』から稲垣邸は10分程だ。  その間に翠は稲垣マジックで説得されてしまうだろう。 「お見合い結婚は条件が先に立つから、利害関係がはっきりするわ。それにオプションで愛情が付けれたら上々よ」  稲垣はそれだけ言うと家に中に入っていった。  家に帰った翠は不意に沈んだ。  1人の休日が、もの悲しく切なくい。  妙齢を過ぎた憂いは翠にも忍び寄る。  翠はお気に入りにソファーに膝を抱えて座ると、考えに耽けっていった……  晴天の日差しは窓から差し込んでも、ソファーには届かない。    ここ2ヶ月で翠の交友関係は大幅に変わった。    本間との関係は終わったものだと思っている。    そして太一とセフレ関係になった。  ただし、今は微妙だ。    何やら、地雷を踏んだらしいが思い当たることがなくて困っている。  それに翠は目の前にいないセフレのことを考えるなんて、恋しているみたいでしゃくなのだ。    どうせ恋人にはなれない。    世の人は、何故そう簡単に自分の恋心を認められるのか?  翠は訝しい。  だって、人って欠点ばかりだもん。  有希子にしてもそうだ、確かに医学会の逸材かもしれないけれど、禿げ、チビだ。  有希子からは今まで通り、週に何度かラインが来るが、会うまではしない。  翠に時間を使うなら喜多に費やすのだろう。  麗羅と年の離れた友達になって、お見合い話で安井と再会した。  安井は子供の頃に大好きだったお兄ちゃんのままだろうか?  麗羅は今の安井を改めて好きになれるのだろうか……などと……  翠は今になって心配でならない。  そして、変化の際たるものは稲垣かもしれない。    休みの日は必ず『欅』で一緒にモーニングをしている。  煌が翠に会いたがって仕方がないそうだ。  それだけの関係なのに、今も稲垣の助言が脳裏に揺蕩う。    未だ気分はブルー寄りだ。  翠は唇を尖らして思案する。    都合良く、お見合いパーティーの開催日は次の休みだ。  安井とはあれほど予定が会わなかったのに……  翠は悩んだ挙げ句、母に了解のラインを入れた。 【ありがとう】  直ぐに拝んでいるスタンプが添付されていた。  そして、続いてチラシのURLが添付。  ・・・島ラブ・・・    素敵な出会いが待っています。  タコを食べて、一日、楽しく過ごしましょう。  海辺のトークタイムやグループリクリエーションなど、仲良くなるきっかけ満載です。  キャッチコピーの下のは参加要項。  裏面にはタイムスケジュール。  AM10:00にフェリー乗り場 集合……      チラシの内容は翠の想像していたものとは随分違っていたが、実際に行政主催で開催されるイベントとには間違いなく、チラシにその旨は記載されていた。    海もタコも嫌いじゃない。  チラシを読み込んでいると、少しは気分も浮上してきた。    すると太一からのラインが入ってきた。  驚いたことの昼間のデートのお誘いだった……

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