遊ばれ女と婚活
カジュアル見合い2

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『蘭々』は街中華と呼ぶに相応しく赤に塗られた太め窓枠がやけに目を引く。  そして、黄色に赤の縁取の看板と、龍の絵柄の暖簾も如何にもだ。  勿論、店の椅子は背もたれ付きの赤いビニール製を置いている。  翠は『蘭々』の事をラーメン屋と呼ぶ癖に、いつも麻婆豆腐セットを頼む。  麻婆豆腐と、ご飯と卵スープに、それプラス唐揚げ、餃子、春巻きのどれか一品を選んで付けられるセットだ。 「いらっしゃい、久しぶり」  翠は5つあるテーブル席の一番奥に座った。  店主とも顔なじみだが、挨拶を交したらそれだけで、舘崎のように馴れ馴れしくは話しかけてこない。    平日はPM5:30は夜の開店時間だ。    翠は自分が一番客だと思っていたがカウンターに先客がいた。    服装こそTシャツにジーンズとラフな感じだが、似たような後ろ姿に覚えがある。          翠は、まさかと思うが、そのまさかが振り向いた。 「本間さん……」  本間はカウンター席から水を持って移動してくると、翠に一瞥くれてから文句を垂れた。 「お前、何で連絡くれないの?俺が離婚したこと隣におばちゃんに聞いたろ」    翠は本間の言葉の耳を疑う。  それ以前に、この店に何故、居る?    翠から本間に連絡をしたことは過去、一度も無い。  妻帯者と付き合うルールのようなものだ。  離婚していたことを黙っていて、今更、何なんだろう……と翠は困惑していまう。  翠はもう終わらせたのだ。  マッチングアプリの事を言及したいが、自分も利用していると思われるのは心外なので、それは出来ない。    店主が少し不可解な顔で店内を見回わしてから、翠の席にチャーシュー麺を置いた。  すると、次なる客が入店する自動ドアの開閉音が聞こえ、店主は急いで踵を返す。   『欅』の連中だ。 「マスターいらっしゃい。珍しいね、アルバイト引き連れて、どうした」 「今日は工事で早く閉めたから、たまには親睦を図らなくっちゃ、5人ね」  そういえば【本日、店内工事のため5時に閉店させて頂きます】と張り紙が張ってあった。     本間も舘崎も、お互いを知らないが、翠にしてみれば、またもや、かち合わせだ。 「運命感じるわ~」  翠は顔を伏せモルタルの床に小声でゴチた。  アルバイトの1人が翠に気がつき、舘崎に耳打ちすると、翠の席に一瞬だけ顔を向けた。    一行は翠達の席から一番離れた席に着き、メニューを広げている。  舘崎は大人だ。  見知らぬフリをしてくれている。    翠が黙っているので、本間はラーメンを啜りだしている。  少しして 麻婆豆腐セットが来ると、翠は黙々と食べだす。    けれども、先に食べ終えた本間の視線が気になって、久しぶりの「蘭々」の味を堪能することが出来ず、翠は苦々にがにがしい。  舘崎一行の席からは笑い声が絶えず、何やら盛り上がっている様子だ。    それと「蘭々」は人気の店だ、次々に客が来る。  食べ終わったら席を立つのが暗黙の了解。    それでも、翠は今、話を付けておかないと面倒な事になりそうで、中々腰を上げれない。  賑わう店内で、翠達の席だけ気まずい沈黙が続く。    されど、こんな時に、おばさんの視界に狭さは有り難い。 「丁度良かった田辺さん、お見合いしない?……あら、やだ、ごめんなさい」    翠に話しかけてきたのは大家の稲垣だった。  呆気にとれれる翠だが、稲垣は翠しか眼中に無かったようだ。  今、やっと本間に気がつき慌てている。 「私も偶然会っただけですから、どうぞ」  本間は自分の分の伝票だけ持つと会計を済まし出て行った。    つくづくご都合主義の男だと翠は辟易する。 「良かったかしら……まさか。彼氏だった?」 「いえ、本当に偶然なんです。デパートの方で私、よく、そこで買い物するのでご一緒したんです」   稲垣は孫に強請られねだられて来たらしく、ご亭主も一緒だった。  前々から友人に息子と翠との見合いを是非にと、頼まれていそうだ。    稲垣は、翠に偶然会えたことで気が急いてしまったと、まだ詫びている。  稲垣は本間が座っていた席に座ると、空いた皿を下げに来たアルバイトに、自分の席にと、断りを入れてから注文を告げた。    「私のが来るまで、少しだけ時間良いかしら」  翠は断るわけにもいかず頷くが、少し困った。    見合いなどする気はない。    太一と良い感じになりそうなのだ。  有希子に探りを入れたところ、太一は独身らしい。  だから……と言うわけでも無いが、翠は、あれから1度『チャップリン』に飲みに行き、その翌朝は太一の部屋から出勤した。    しかし、太一は結婚は枯れてからでいいと言う。 「お会いするだけどうかしら、堅苦しいのじゃ無くて、そう、カジュアル見合い。友達に紹介して貰う感じっ言うのかしら……お写真とか釣書も無しでいいから、気楽に考えて」  それから稲垣は矢継ぎ早にその見合い相手の事を話しだした。    孫達が待つテーブルには注文した料理が揃っている。 (折角の湯麺が伸びてしまう……)  長引く話と、その光景に翠は承諾するしかないと思った……    稲垣の熱心さに負けて、取り敢えず、会ってみることにした翠だが、それは言い訳の過ぎない。    相手の職業、消防士に惹かれているのだから……

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