遊ばれ女と婚活
マッチングアプリ2

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 酒気を帯びた状態で、通勤ラッシュの地下鉄に乗るのは顰蹙物ひんしゅくものなので、二人はタクシーを使うことにした。 「駅前のロータリーを抜けたら、二つ目の信号を右折して下さい」  有希子がタクシー運転手に告げた。  運転手が『とっきんとっきん』のモニュメントの解体の話を振ってくるが、二人とも返事に困る。  マッチングアプリで知り合った相手との初飲みは有希子が誘ったと言う。  スペインバルでの飲食中に根掘り葉掘りと聞いたが、有希子の話は要領を得ず、翠は今一つ、アプリのシステムがわからない。  有希子は今でも、実家に住んでいる。  父親は教師、母親は専業主婦の、どちらかというとお堅い家だ。    娘がマッチングアプリで知り合った男と飲みに行くなど、言語道断だろう。  マッチングアプリに対する翠の見解は、モテない女とヤリモク男の出会いの場!だが、それを承知で賭に出るのは本人の勝手だと思う。  なので、避難も軽蔑もしない。  職場でも、マッチングアプリを利用している人物が男女共に存在するらしいが、周りの目は賛否両論といったところだ。  そもそも翠に周りには利用する必要のない人間が多く、実状としては皆、興味が無だろう。  合コンで人気があるのは幼稚園の先生も同じだろうに、有希子が利用する理由が謎だ。  それよりも翠は、連れてこられた店に文句がある。  『チャップリン』は高校時代の先輩の実家で、当時はたまり場にしていた。  レストランとも、居酒屋とも、ライブハウスとも言えない、属性不明の店だ。  翠は電車通学だったが、有希子は自転車。  要するに、この界隈は有希子には地元ととなる。 「いらっしゃい、翠~久しぶりだな~遣らして」  開口一番の挨拶がこれだ。  先輩の名は山下太一。  翠は太一と寝たことがある。  現在は妻帯者、高校時代は彼女持ち……いつの時代も翠に近寄るフリーは稀だ。   10年以上経っても太一は軽い。  翠の同行はラインで確認済みという。  金髪ボウズに黒顎髭はお洒落なのか疑問だが、人好きする笑顔は変わりない。    どうやら有希子は太一にも、品定めをして貰うつもりらしい。  それならば、店の選択に納得で出来る。  店内には3組の客がいたが、『チャップリン』はバンドが入れるほど広く、どこに座るべきかいつも悩んでしまう。    立ち話をしながら見当していると、ブリティッシュアンティークの扉が開き、男2人が入ってきた。  翠は長身の男に思わず目がいったが、もう一人の男が有希子を見つけて顔を綻ばせているのは一目瞭然だ。 「何、ダブルデート?聞いてない」  翠は希子を見やり、この状況を咄嗟に聞いた。  有希子も首を小さく横に振り、訝しげだ。 「へ~女の方も品定めに友達連れてきた」  長身の男が不躾なこと言うが、当たっているだけに遣る瀬無いやるせない。 「待ち合わせだった、4人ね。あっちの席にどうぞ」  場を読んだ太一が、上手く助け船を出してくれる。  BGMの洋楽がやけに鮮明に聞こえだす。  取り敢えずは促されるままに、四人は奥まった席に着いた。  太一がおしぼりと水を運んでくると、有希子はメニューを広げて二人にオーダーを決めて貰ってる。   そして翠はその横で、パチパチと瞬きが止まらない。  腑に落ちないときの症状だ。  人の好みはそれぞれなので一概には言えないが……  有希子が翠に引けを取ることは無いだろう。  それに、今日に限って翠はポロシャツにジーンズだ。 「翠、こちら喜多忠さん」  紹介されて翠は慌てて瞬きを止てペコリと頭を下げる。  喜多忠は165センチあるかないかの小柄な男で、仮に有希子がスニーカーを履いていたとしても彼女と並ぶと低いだろう。    顔面偏差値……  美醜のジャッジは出来ないが、頭髪が薄く、お世辞にも男前とは言えないだろう。  唯一褒めれるのが服装で、スーツが上質。  金はありそうだ。  一方、友人と思しき男は…… 「翠さん、あからさまに観察しないで、忠ちゅうに俺の紹介もさせてあげてくれないかな」   嫌な男だ…… 

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