よろず屋相談FM.860
きんぴらの叫び

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「こんばんは!二月最初の金曜日です!よろず屋相談FM.860のお時間がやってまいりました。少し前は16℃だったのに、今朝は1℃って寒暖差に耐えられないヤスミです。皆さんのところはいかがだったでしょうか?さてと本日のご相談者は、、人です。キター!なんだか叫びたくなりました。やっぱ嬉しいじゃないですか…あ、お電話がつながったようです。もしもし、初めまして。私、ヤスミと申します。最後までよろしくお願いします。お名前、ご職業、教えて頂けますか?」 「こーこんばんわ!こ、これス、スピカー?失礼しました。スピーカーホンです。す、すいません。きんちょー緊張してます」 「ハッハ、大丈夫ですよ。最初は誰でもそうですから。ゆっくりマイペースで…」 電話の向こうで深ーいため息一つ二つ?あ、深呼吸ね、深呼吸。 「私、金田美平かね だ み ひらと言います。漢字で書きますと…金銀の金、田畑の田、美人の美、平は平です。年はそれなりです。職業はスーパーでお惣菜作りのパートをしています。ハァーー」 「……きんぴら?」 しまった。口からポロッと出た。ヤスミはラジオの向こうで目を白黒させてる。しかし相手からの返事は一切なかった。だんまりを決め込むわけにもいかなくて、 「かねださん、金田さん、音声の調子が少し悪いようです。聞こえますか?アーアー」 あくまで至って冷静なヤスミの図。 「悩みというか、愚痴というか、そんなのでもよろしいですか?」 「生きてりゃいろいろありますよ。絶対に相談しなきゃもないです。今が永遠に続かないように、この瞬間の主役は金田さん貴女です。私は観客席にいますので…」 「私が、、主役…ですか?五十年生きてきて初めての舞台デビューなんですね。この場をありがたくお借りします」 年はそれなりか…今度使ってみようっと。 「実は主人の私に言った言葉が、何日経っても今もですけど頭から離れないんです」 ありがちな悩みかな? 「ナイーブな話なんですね。あの他の方に丸聞こえなんですけど、大丈夫ですか?」 昔々、ヤスミ訴えられた経験あり。上記の発言をしなかったばかりに… 「いえそれはぜんぜん。大丈夫なんです。今年の初め、歯医者さんに行ったんです。自慢じゃないんですけど、私生まれて初めて歯医者デビューしたんです。虫歯もない白い歯だけが取り柄やったのに」 へ〜すごいな。俺なんて部分入れ歯だぜ左上奥の二本。きんぴらの自慢か… 「おかしい思うたんはいつくらいですか?やっぱり痛かったんですか?」 「…暮れから時々ですけど、下の歯がむずむず気持ち悪くて。歯が痛い経験が無いのでそれはちょっとわかりません。ただ少しおかしいなぁとは思ってたけど、まさか虫歯だとは全然気づかなくて…これでもかなり悩んだんです。けどふとカレンダー見たら一月もあと一週間足らずしかなくて。この地に嫁いで、歯医者さんのどちらの先生が腕が良いなんて、まるで分からなくて。主人に聞いてもお隣のウメちゃんに聞いても、ハッキリしない。町の歯科の案内帳を最初に開いたところにしよう。そう決めたんです!」 博打か花札やな。勝負師みたいな人…?歯医者、こればっかりは相性やからな。先生の腕が良くても、自身の歯と反比例したら終わりやしな… 「そして、行かれた?」 一応、相槌打っておく。ちゃんと皆聞いてるよ。安心してなの相槌。 「……いえ、そんな博打は。パクチーは食べられるけど、安易な博打は借金返されんのちゃうかって悩んだら最後なような…」 なーんやねーん。行かへんかったんかーい。 「内科のかかりつけの先生の紹介状持って、 街中の親子二代でされてる歯科医院に行きました。そしたらとても丁寧に見て下さったんです。まだ当分は通わないといけませんけど。優しくて男前な先生で、あ、息子さんがです。院長さんはお爺さんでそれなりな男前です」 女子言うんはやっぱり皆そこは外せないんやな… 「見て頂いた歯、初めての虫歯でした。毎日五回歯磨きして、歯間ブラシもしっかり二往復してたのに…少しショックでしたけど、男前先生に会えたしヨシとしましてん。ただ…」 ん、ん?どうした、きんぴら夫人?そっか、やっぱ初めてが続いたからショック大きかって言葉詰まったんやな。 「ただ、なんです?」 「その虫歯、神経が死んでたんです。先生曰く、歯が相当痛くて我慢してを繰り返すと、神経にも限界があって、ある日突然あの世に行くんやわ…神経って。そう仰ったんです」 神経が死ぬ?初めて聞いたよ。神経突然死。原因は行き詰って自死。アカン…想像止まらん…ぷぷぷー涙出たやん。 「麻酔かけずに治療したんですね?私やったら即死ですわ…麻酔なかったら痛くて泣くではすまないですもん」 「ハァー歯だけにですかね」 ヤスミ必死で笑いこらえてます。手のひらで押さえ込んで笑いのかけらも出んように。 「歯医者は次回の予約を取って出たんです。問題はそれからなんです…」 「ご自宅に到着しましたよ。さぁどうぞ」 「はい、買い物を済ませて家に帰りました。三時のおやつの時間に歯医者さんの話を、主人の方からふってきたんです。明日は雨やなってそう思いました。そしたら頷くばっかりで、時折、こうやって前で腕を組んで、せんべいをバリバリと食べながら…」 ヤスミもラジオの向こう側も息止めて待つ。 「神経無いんかぁ言うてきて、無神経が神経無くなっただけやがな。そう言うたんです。はじめ何言うてんのこの人は?頭の中も外もハテナマークがいっぱい立ってしもうたんです。すぐには言うてる意味がわからんで。それでヘラヘラ笑って馬鹿にしたんです」 アホー! アホを絵に描いたようなアホやな。こんなアホたまにおるわ。近所のオッサンに。自分ではセンスがいいと勘違いする輩。そういうのに限って二、三日なにかにつけてツボって口に出しよるんよ。 「無神経を地で行くアンタに言われたないわ!」 「オー!言うたったんですね?」 「…いえ心の内で叫びました」 ムンクならぬきんぴらの叫びやな… 「あ、待って。ご主人はからかってふざけただけでしょ。そんな感じがします。私の近所にも似たような人います。自分ではバッチリなこと言うたつもりでも、聞かされた側はほぼドン引きな案件ですから。あ、私が言いたいのは、無神経から神経無を引くとって話なんです」 「はぁ。私、疲れたんでお茶飲んで観客席側に行ってもてよろしいか。いや行きます」 湯呑みをズズズッと啜る音。せんべいをパリンと真っ二つに割った音がした。 「えっとですね。頭の中のホワイトボードで想像してみて下さい。無神経から神経無を数字式のように引いてみます。何が残るでしょう?文字が全て消えますよね。書く前の真っ白なホワイトボードのままです。ゼロ以下です。悩む必要がどこに存在しますか?さっきお名前をお聞きした時、頭に浮かんだ言葉があります」 「きんぴらですか?小学校の頃、よう男の子たちにからかわれましたわ。けど私、そのきんぴら大好きやから、全然気にも止めませんでしたわ。パリパリパリ、美味しいわ…梅ざらめ」 こんな夜に食べたら肥えまっせ。それもザラメって砂糖の結晶? 「そのきんぴらですが、日本食の代表と言ってもいいくらい素晴らしいお惣菜です。漢字はお金が平いと書いて、金平です。その金平は、金太郎で有名な坂田金時の息子・金平から名付けられたって知ってますかね。遡るは江戸時代、牛蒡は精の付く食べ物と考えられていた為、強力伝説として世に広まって知られていた金平に仮託したものと記録されています」 「それが、私とどんな関係が?」 痛いところ…ついてくる最強か…汗。 「名前つながり…そう思って頂ければいいかと。坂田金時は実在の人物ですが、息子はどうやら江戸時代の浄瑠璃の中で作られた架空の人物で、怪力によって、化け物を次から次へと退治する荒唐無稽な物語で人気を博したと言う説が浮上しましてね。このことから金平は、強くて丈夫で太いとなり、ゴボウも精が付くと言うことから、金平ごぼうと呼ばれるようになったんですよ。土の野菜はやっぱり最強なんでしょうかね…」 ありゃ?ここは大きくうなずいて欲しいのに… 「金田さん、かねださーん」 いくら呼んでも返事がない。時計を見るともうすぐ日が変わりそう。金曜日が土曜日になってしまう。ヤスミはそう思った。もう一度声をかけても返事がなくても、それでヨシとしようと… 「…さん、金田さーん」 「んご、ご、ご、ゴォー、もう食べらないわ。お腹、いっぱい入らにゃい…たい焼き」 イビキと寝言のあとは夢の中… 私もなんだか眠いです。 ふわぁ…眠ッ 「あ、次週もお楽しみに!ではまた!」

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