専属SPは今回限り
1-1 専属SPは四時間限り―令嬢―

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「一人でなんてムリ、イヤ!」  ぎゅんと眉間を寄せて、口をへの字に曲げて、父を睨む私。だって、高校から帰ってきた私へ「一人で出席してきてくれないか」なぁんて言うんだもん! 「埋め合わせは必ずするから。お願いだよ、紗良さら。あと二時間しかないし」 「会議と打ち合わせが入っちゃったのは仕方ないってわかるけど、どうして他の食事会の方を優先するの?」 「パパが行く他ないような食事会なんだよ。今日のパーティーはほら、『ご家族どなたかでも可』って言われてた会だったから、誰か一人でいいらしいから」 「ママは?」 「ママはオープン記念式典が長引いてるらしいから、間に合わないんだ」 「ええー?」  私は口をすぼめて、不機嫌を露呈させる。 「もうっ。ゆっくり映画観ようと思ってたのに」 「ごめんよ、紗良」  わかってるよ、わかってる。わかるけど、たかだか高校生ぽっちの私一人が行ったところで、と思っちゃうんだよ、パパ。 「紗良なら、上手く出来るよ。立っているだけでこんなにかわいいし素敵なんだから、主催の方もご満足くださるさ」  パーティーって名前のこういう営業、昔から意味があるのか不明だけど、大人の世界はわからない。一人娘の私は、父のためならと腹をくくって、「しょうがないなぁ」とそっぽを向いた。 「それに。ちゃんと護衛SPも用意したから大丈夫だよ」 「え? 護衛SP?」  くるりと見上げた父は、なぜかにんまりと笑んでいた。       ♡  ◇  私──鴨重かもしげ紗良さらの実家は、鴨重グループという大きな会社。なんでも、江戸時代中期に営んでいた宿屋が起源で、ご先祖代々社長として、企業を大きくしていったみたい。 「お嬢様、こちらはいかがでしょう」 「ありがとう。でもドレスがビビッドなピンクだから、耳はエメラルドがいいと思う」 「かしこまりました」  私は、産まれたときから『令嬢』だなんて呼ばれている一人娘。イトコはたくさん居るけれど、直系は私だけだから、無意識のうちに自分が後目を継ぐことを考えて生きてきた。そんなこともあって、社長である父にはなんとなぁく逆らえないでいる。  とはいえ父も母も優しいし、なにも不自由はない。だけど、たまに令嬢の肩書きが鬱陶しく思うこともあるの。一般家庭の一七才の女の子だったら……っていうのが、誰にも言えない私の『無い物ねだり』という名の妄想のタネ。 「ピンや装飾品で痛いところはございませんか?」 「うん、平気。幼く見えないかな、大丈夫?」 「ええ、とても素敵ですよ、お嬢様」  社長から頼まれたのは、豪華客船で行われる祝賀パーティーへの出席。もともとは夫人と二人で出席する予定だったみたいだけど、突然令嬢一人娘だけの出席に変更になってしまった。私だけでも大丈夫ってことだから、遠慮なく私だけで行くけれど。  大体、祝賀パーティーだなんて慣れっこだもの。習いものと似たような感覚。『外面』だってきちんとしつけられていて、不備は一切ない。これだけは自信あるんだ。 「ねぇ、ホントに私が行かなきゃダメぇ?」  ドレスの背中の留め具ホックを付けてくれているメイドさんに、ダメもとで訊いてみる私。 「社長から仰せつかった、大事な会合だとお聞きしております。お嬢様にしか、代わりは務まりません」  メイドさんの声色は優しいけど、言ってることは大人で厳しいな。 「じゃあ、パパの言ってたSPって誰かわかる? パパかママのSPの人?」  化粧品をしまっている、向こうのメイドさんにも聞こえるように、疑問を投げる。 「いえ。それはございません。皆さま、社長と奥様に着いていかれましたから」 「ええ? じゃあ私に着いてくれるSPってもしかして、日雇いの外注なの?!」  声を裏返してしまったけど、外から呼んだ護衛ほど不安すぎるものはない。個人的にはね。 「そのようでございますね」 「詳しくは存じ上げておりませんが、社長のお見立てとのことでしたよ」 「社長の、見立て……」  父が安心して私のことを任せられるとした人ってこと? まったく。なんでSPをサプライズにするのよ!  考えが読めたのか、化粧品を片付け終えたメイドさんはクスと笑んで、もうひとつ教えてくれる。 「先程お着きになって、本邸にてお召し替えをなさっているところだとも耳にはしましたが」 「ひ、一人?」 「ええ、お一人のようでした」 「やだぁ、外注の人とマンツーマンとか本当ムリ!」  ぶんぶん、と首を振ると、背中を留めてくれていたメイドさんの手が、私のスタイリング済みの髪めがけて伸びてきた。 「お嬢様、おぐしが崩れますよ」 「ハードのスプレーでも振っといてっ」 「今日の今回だけですから、まぁそう言わずに」 「どこの誰かもわかんない日雇いSPなんて、今回限りで充分よ!」 「お嬢様、お履き物はいかがいたしましょう」  化粧品を片付け終わったメイドさんが、いつの間にかいくつか靴を出してくれていた。あぁ、さっそく目移りしちゃう。  この高いヒールの方が大人びててスタイリッシュだけど、これから行くのは船上パーティーだし、揺れたら危ないかもしんない。これはお気に入りだけど、色が合わないかな。オープントウ爪先開きはマナー違反だから今回は使えない。うーん、どうしよう。 「ドレスに併せて、こちらにいたしますか?」 「エナメルかぁ。なんか安そうに見えない?」 「ではこちらはいかがでしょう」  箱に入っていたそれは、真新しい一組。白地に赤やらピンクの煌びやかなストーンとスパンコールで飾ってある。ヒールも、びっくりするほど高くはない七センチのものだし、ベストマッチかもしれない。 「わあ! こんなのあったっけ」 「先日奥様がご用意なさっておりました。いつかの機会に、と」 「あ、しかもこれ『OliccoDEoliccO®️オリッコデオリッコ』じゃない?」 「そのようですね。あぁ、春モデルだそうですよ、こちらに説明書きがございました」  『OliccoDEoliccO®️』は、世界でもそれなりに有名なトータルファッションブランドのひとつ。スーツにドレスに小物まで、なんでも揃う。いつか着たかったブランドだったから、これは嬉しい! 「決めた、これにする。ピンクゴールドのアンクレットもしていくから、準備お願い」  靴が決まったらウキウキしてきちゃった。なんて単純な私。でも仕方がないよね、かわいい靴は気分上がるもん!  SPのことは、それでもやっぱり緊張するし気がかりだけれどね。

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