専属SPは今回限り
6-4 専属SPは策略を知る―SP―

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 ちょっと待って欲しい。俺──和泉敬斗は切実だった。 「この際試しに付き合ってみてもよさそうじゃない?」  まず。この人、鴨重紗良の父親、だよな? あの……「試しに付き合ってみたら」ってなに? そんな軽い感覚でいいのこの家?!  ていうか、鴨重社長ご自慢の一人娘が、いくら旧知の仲とはいえたかだかその辺の一般人の息子である一般人の俺と、って話なんだから、そんなに簡単に容認するな。俺的には「わたしの娘に近付くな」とか言われて睨まれてしかるべきかなって思ってたんですけど? いや睨まれないならありがたい話ではあるんだけれども! 「ってなことを、おっちゃんと鴨重くんで話してたというわけだ」  親父も親父なんだよなァー?! なんでコイツもまたこんなにノリノリなんだよ? 鴨重紗良も言ってたが、二人揃って息子娘をなんだと思っていやがるんだ。浅い思い付きでくっつけようとすんな、マジックテープじゃねんだぞ。  そんな感じで、あんぐりと開いた口がずっと着地点を見失っていて、塞がらない俺です。 「どうかな、紗良ちゃん」 「えっ、あの、だからその、私」  ほらみろ、鴨重紗良は回答に困っている。たまたまSPを頼まれてちょっと仲良くなっただけの同じクラスの男子と、その両家の親から「付き合ってみたら」と突然突き付けられて、混乱しないわけがねぇよ。  そもそも何度も言うが、鴨重紗良はただのクラスの女子ではない。大会社のご令嬢だ。俺が簡単に横に並んで平然としていいわけがない。たとえ親がゴーサインを出していたとしても、周囲が許すわけもねぇというか。  だから俺本人の意思とか気持ちなんてものは、三の次四の次に廻されるもんなんじゃねーのかな? 「敬斗くんはどう?」  はっ? いや、だから頼む。俺に振らないでくれよ! 「『手を繋ぐ』とか『手の甲に唇を落とす』くらいなら許してあげるよ」 「あのっ、だからその、俺っ」  いやいやいやだからどうして簡単にそういうことを承諾しちゃってんですかね、この社長さんは! 生唾を呑んで、慌てふためく俺。 「もしかして紗良のこと、そんな風に見れない?」 「ぬゎっ……」 「ちょっ」  待て待て待て待て。仮にも親の前で「アンタの娘さんは恋愛対象じゃねーですね」とか言える男どこに居んの?! で逆に今こんな状況で「娘さんのことむっちゃ好きです」とか言ったらむしろハチャメチャに嘘くさくないか?  いやいやいやいや! 今俺絶対に下手なこと言っちゃダメなやつだから! 両家の親が訊いていいことじゃねーし聞かせたくもねーし聞かれたくもないんですけど、この内容! 「ンなこたァねーよなァ、敬斗!」 「ちょっ、親父黙っててくれよ頼む!」 「パッ、パパっ! いくらなんでもッ、きゅきゅ急すぎじゃない?! けっけけけ敬斗くんにだってっ、こ、この、好みあるだろうし、その」  バチリ、思わず顔を見合わせてしまった俺と鴨重紗良。お互いに顔面崩壊寸前で、大変なことになっている。赤くなっていないところを探す方が無理難題なのではと思えるほど、互いに茹でダコ状態で。  だっ! 真っ赤の鴨重紗良を見続けてたら心臓がヤバい。ぐりんと社長に視線を合わせて、前のめりに説いてみる。 「いっいやあの、そもそも! 俺の意思とか気持ちとかよりも、もっと社長的に大事にしなきゃならないことがあんじゃないですか? 娘の身の安全とかっ、会社と会社の繋がりがどうとかっ」 「あぁ。だから、会社が絡むと癒着だとか裏取引だとかを言われたりするし、そういうのやめようと思ったわけだよ。もう繋がりだとかのために結婚させたりはしないことにしたし、紗良も不本意だろうから、今後は一切考えないってこと」 「で、でもさっき『簡単にどこかへやったりしない』って仰ってましたよね?」 「『知らないところへは』、やったりしないよ。和泉くんの息子だもォん、安全安心」  ねぇ? と同意を求められた。うーん、それでいいのか、社長? 曖昧に笑んで、親父を一瞥……も意味がなさそうだ、クッソニヤニヤしやがって、チクショウ! リングの脇でキレ散らかしてた親父はどこ行ったんだよマジで! 「紗良と敬斗くんの意志が当然第一だけど、二人の雰囲気とか、楽しそうに護衛してされてを見ていたら、お互いにく想っているんじゃないかなって思ったわけだよ。ねぇ、和泉くん」 「そうだなぁ、鴨重くん」  お互いにく、って? く想ってるの、俺だけじゃねーてこと? そんな風に、周りには見えるっつーこと? 「あっあの」  ぐぬ、鴨重紗良を見られやしねぇ。親の手前とかそんな次元の話じゃなくて、そもそもアイツの本心を、本格的に知りたいんだけど知りたくないような、そういうその、ぐおお。 「んー?」 「なんだよ敬斗、もったいつけんな」  とんだスチャラカ親父たちよ。  たかだか高校二年なんて、大人からしてみたらまだまだクソガキかもしんない。でも、正直なところそこまでガキでもねーんだ。好きだの嫌いだの恋だの愛だのは、親の踏み込む領域ではないことを、もう知ってくれないか。 「そ、そういうのがもしあれば、その、二人で話してくんで、今後」  そう。変に親が世話を焼いたり、お膳立てしたりするから、ただでさえ面倒な話が余計にもつれてこんがらがるんであって。  だからここは、当人同士のみでなんとかしねぇとだろう。どう考えたって! 「だから、そういうこと考えるなら、おふざけ無しで真面目に考えさせてくれませんか」  よし、腹は決まった。そっと深呼吸。 「『お嬢様とSPとして』と、鴨重紗良と和泉敬斗として、と」

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