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「さてさて改めまして。私の名前は『曼珠』。この合歓鉄道の社長じゃ。今後ともよろしくな、志乃田くん」  まんじゅ……社長か。とても珍しい苗字だなあ。    曼珠社長は続けた。 「でな、ここでひとつ入社試験じゃ」  ええええ⁉︎ 突然試験って⁉︎  なんだろう……この会社の路線名とか歴史とかかなあ。でもそんなの全然知らないよ!っていうか勉強してないし!  いやいやそうじゃなくて、この会社ってネットに載っていなかったんだし! 無理だそんなの! 「……私と志乃田くんとは、実ははじめましての間柄じゃないはずだ。前に一度会ったことが……分かるかね?」  思わず面食らった。また「え?」って。それが試験なの?  っていうか社長さんは……そうか! 「えっと、ついさっき、僕が電車の中で見た夢の中でお会いした気……が」僕は思い切って答えてみた。  そう、夢の中のあの光景を。僕に猫の話をしてくれたあのおじいさん。 「うむ、合格! おめでとう志乃田くん!」  うわわ、本当だった! 合ってた!!  ……でも、なんで僕の夢のことまで知ってるんだろう……?  社長は僕の肩にポンと手を置き、そのうちわかるさと小さな声で答えてくれた。 「さあ、話はこれくらいにして、まずはこの駅を案内することにしよう!」  社長に引っ張られるように、僕は駅事務所の奥へと連れて行かれた。  木造の古い造りだな…。なんでちょっと心配してはいたんだけど……意外と中は快適な新しい設備だった。  トイレはウォシュレット付きだし、洗面台にはジェットタオルまで完備されている。  すごい! これだけでも前にいた駅より進んでる!  小さな食堂にはピカピカのガスコンロ。それにお風呂は足が伸ばせるくらいの大きいバスタブだ。  とどめに寝室は個室。すごいすごい! ちょっとしたビジネスホテル並みに充実してる! 「ふふふ、まだまだこの駅には秘密があるんじゃよ」と、社長は寝室のさらに奥に通じる通路へと進んでいった。  でも、見るからにここはもう行き止まりなんだけど……  社長が壁に埋め込まれているノブをひねると、開いたその先には……  ぱあっと周りが明るくなった、直後ピロピローン、とどこかで聞いたことがある電子メロディが。  これ、コンビニだ! 駅の中にコンビニが併設されてるんだ! 「まあ、田舎じゃから品揃えに関してはちょっと劣るがの……でもこの街唯一のコンビニじゃ!」と、社長は苦笑した。  うん。まあ確かに……中をぐるっと眺めてはみたものの、普通のコンビニの3分の2くらいの充実度かな。それでもないよりかはマシ。日用品だってジュースだって新しいのはきちんと並んでるし。  でも、なんか不思議。 駅の設備にしろこのコンビニにしろ、匂いが…新築そのものなんだ。 まだ出来てからまもない、素材の抜けない匂いがする。  まさか、この日のために急遽作った……なんてわけ、ないよね。

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