ぼくは舗道を埋め尽くす鏡の破片をみりみりふみしめて、家へと帰る。そのひとつひとつにぼくの姿が映っていた。 ぼくはあの世界がニセモノだと思っていた。でもそうじゃないとしたら? あの血まみれの世界が、こっちの世界の何かを映し出しているとしたら……? リビングにはまた大穴があいていて、いくらきれいなカーペットを引いてもごまかせそうになかった。 その日の夕飯時は、なんだか不穏な空気が漂っていた。 母さんが父さんをチラッと見る……父さんは緊張した面持ちでぼくにいった。 「あのなあ、父さんと母さんは離れて暮らすことになったよ」 「ふうん、そう」 「おどろいたかもしれないけれど……」 「知ってたよ。だって二人とも、とても仲が悪かったもんね」 二人は顔を見合わせて、びっくりした。 「それで、離婚するの? うん、わかったよ。その方が、お互い幸せになれると思うし。じゃあ、ぼくはどっちについて行けばいいのかな? もし母さんがぼくを育てるのが面倒くさいなら……」 母さんは口をはさもうとしたが、ぼくはそのまま続けた。 「……父さんのほうにいってもいいよ。でも、できれば――ぼくが学校のガラスをわって、それで手をケガしたってことを認めてくれるほうがいいな。意味がわからない? そのままの意味だよ。ぼくがやったことを忘れたり、ごまかしたりしない親がいいね」 ハハハ、良い子はこんなセリフ言わないだろうね。 そう、自分がどう振る舞ったらいいかよくわかっていて、その通りにするのが良い子だから。でも、そんなこともうどうでもいいや。 ぼくは食卓を立って、自分の部屋に戻る。そして窓ガラスに話しかけた。 「さあ、準備ができたよ。鏡を探しにいこう!」 だけどあいつは出てこない。肝心な時にいないんだな。でもいいんだ。やり方はわかってるから。ぼくは書道用の文鎮でガラスを叩きわった。もうためらったりなんかしない。 ひびわれた先から、真っ白い風景が姿を見せた。 「へえ? そこなんだ……今いくよ」 ぼくは慎重にガラスを外していって、自分一人がくぐり抜けられるだけの「穴」を作った。 そこからは真冬の冷たい空気が吹きつけてくる。今は梅雨に入る前なんだから、そんなことおかしすぎるだろ。だけど、でも今のぼくにはそれがなんだかうれしかった。やっと何かがわかりそうなんだから。 ぼくは夜の下、真っ白い雪の中に足を踏み入れた。
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