――お誕生日おめでとう! 五月一日、今日はぼくの十才の誕生日だ。 みんながいっせいにクラッカーを鳴らしてくれた。 だけどぼくはその音を聞いた瞬間「なんだかヘンなことがはじまったぞ」と思った。 まるでお寺の鐘のようにわんわんしている。あれれ? おかしいな。耳の奥で高い音がキィンとなって――。 目の前で、透明な何かがぱきんとわれたように思った。 リビングからは、友だちも母さんも誰もいなくなって、床に真っ黒い穴がぽっかりと開いていた。穴からはひゅうひゅうと冷たい風がふいている。 な……なんだこれ? ぼく、いったい何を見てるんだろう? 「とうとう気づいたんだね、ミチアキ」 「えっ?」 ぼくはドアの方をふりかえった――そこには、ぼくと同い年くらいの、ぼくそっくりな……鏡で見たことのあるぼくの姿があった。 そいつはまるで自分の家みたいにして、うちのスリッパをはいている。 「えーと……どちらさま?」 「知ってるだろ。今日の誕生パーテイーにだって招待されたんだし」 いやいやいや、ぼくは招待状なんて出してないから。ウソいうなよ。 「だけどまあ、ずいぶんな誕生パーテイーだな。おまえ平気なの?」 そいつの指さす先を見て、ぼくは驚いた。 テーブルの上のケーキには、ぶんぶんと黒いハエがたかっている。そしてみんながいた場所には、大きな血だまりができていた。 ぼくはものもいえずにぼんやりしていた。 「本当の世界だよ」 「本当の?」 「そう、ほんとうのほんとうのほんとうの世界――」 ぼくは、悪趣味なホラー映画を見ているような気になった。 このムッとする匂いはなんなのだろう? 血の匂い?……こんなにたくさんの血の匂いなんて、はじめてかいだ。 「あのさ……これ、君がやってるの? 早く戻してよ。席に座っていいから」 「おれのせいじゃないって。おまえが今まで気づかなかっただけだ」 「……冗談はやめてよ」 そいつは何も答えない。 「――いや、ちがう。ちがうよ。ハハハ、ほんと何いってんの? 今日はぼくの誕生パーテイーなんだよ。友だちも集まってくれて……それでケーキを食べようっていうところで……だいたい君、何なの? どうしてぼくと同じ顔なの? ぼくに双子はいないよ。だから君の存在はありえない。うん、そういうことだよ。だから――これは本当のことじゃない! 早く消えてしまえよ!」 金と銀の紙がたくさん舞っている。それはゆっくり、ただゆっくりと、落ちていく……。
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