「ここはどこ?」 あいつはずっとぼくを助けようとしていた。ぼくに埋められ、息がつまって死にそうになりながらも――そしてあの日、とうとうあいつはぼくのところへきた。 そして、ぼくは知った。 たくさんのいろいろなことを。 ぼくの家庭はまるでうまくいっていないし、ぼくはアキラを見捨てるような卑怯者だ。 今まで無視してきたことすべて……ぼくは自分がそれを知っていたということを、今はじめて知った。 前にはだだっ広い水が広がっている……ふいに不安になった。 ぼくは痛みと悲しみを知るようになった。じゃあ、これからどれだけ恐ろしいことが起こるんだろう? そんなこと無限大だよね。ずっとあの凍てついた墓に眠っていた方がマシだったんじゃないの? 痛みを知って、そしてそれを味わうってことは、なんて大変なことなんだろう。 ぼくにそんなことができるわけないよ。 あいつが水のあたりを指し示した――ように思った。そこにはぼくの影がぼんやりと映っている。 それはいつもそこにあった。どこどこまでも広がっている、空の青を映し出す、いちばん大きな鏡――海だ。 ぼくは海という鏡を手にして、すべてを知ることができる。 ああ、今やっとわかった。 水の中できらきら光っていたもの。ぼくが手にしたいと願ったもの。それは。 真実だ。 ――お誕生日おめでとう! ぼくの真上から銀紙と金紙がきらきら降ってくる。みんなぼくをお祝いしてくれているんだ。ぼくは目がさめたようになって、みんなを見渡した。 みんな明るく笑っていて、ぼくはそのことがとってもうれしくなった。 だけどぼくはすべてのことを知っている。 父さんと母さんは相変わらず仲が悪くて、ぼくがアキラを見捨てていたことは事実だ。そのことを忘れるつもりはないよ。 ぼくは悲惨で美しい世界に住んでいて、そこで人は死んで生きている。ぼくはこれからも、あいつと一緒にたくさんのうれしさと悲しみを経験するだろう。だけどぼくがそれを見ようとするなら、自分を騙さないでいられるなら、きっとそれらみんなが光り輝くよ。 そう、すべて何もかも本当のことなんだから。 (おしまい)
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