昼と夜の子どもたち
ハーピーとわたし 5

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 私は鍵で錠をあけ、扉をくぐる。  塔の中は本当に狭い。でもまっくらっていうわけじゃなく、上の方からかすかに光がもれてくる。私はその光を頼りに、塔の中いっぱいに広がっているらせん階段をのぼっていく。  最初の最初は、それが何なのかぜんぜんわからなかった。  パパは何をしてるんだろう、そうするのが普通なのかな? そんなはずないよ。だってパパの態度が、口調が、それはしてはいけないことだって言っているから。  パパは私が「そのうちに忘れる」って考えてるのかもしれない。どうしてそんなふうに都合よく思えるんだろう。それはパパにとって何でもないことなの? ただちょっとしたいたずら、ほんのおふざけでやってるだけ?  私は肩車をしてもらうような子どもで、この世界の言葉もほとんどわからなかった。だけどその時すでに「これはおかしい」って知ってた。その智慧の光はどこからやってくるんだろう。  ――光を目指して。あそこに行けば。  私は今よりもっとずっといろんなことがよくわかって、そして自分がどうしたらいいのか「ちゃんと」決められるだろう。  ひょいっと出た場所は、驚くべきものだった。  私はどこだかの高い塔の上にいた。頭上では水色の空が広がり、眼下に雲が流れる――そんなわけないよ。だって塔っていっても、高い木くらいの建物だったんだから。  でも実際に風がひゅうっと吹いて、私は高い塔の上にいる。塔の周りには手すりがついていて、展望塔のようになっていた。私はこわごわと下をのぞきこんでみた。この塔はどれくらい高いんだろう。 「雲の上であるということだけは確かね」  私の心を読んだかのような声がかけられた。いつの間にか手すりに鳥が止まっている――その鳥は鳩くらいの大きさで、羽が光を受けて赤色や緑色にきらめいていた。そして頭には、お化粧をした女の人の顔がはりついていた。髪と羽の境目が溶け合っていて、別に不自然だとは思わなかった。 「こんにちは、お嬢さん」 「こん……にちは」 「今日はいい天気ね」 「そうですね」 「どうして驚くの? ハーピーを知らない?」  そういう言葉を聞いたことがあったような気はするけど……スズメよりは珍しい鳥なんだろう。やさしそうな女の人の顔をしているから、悪い鳥じゃないのかな。ああ、もしかしてこの塔に住んでいるのかな。 「あの……すみません。私、今日が世界の終わる日だってきいて、それで塔にのぼりたいと――」

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