ある時、私は図書館で一冊の本を読んだ。それはぜんぜん子ども向けの本じゃなかった。だけど緑色の妖精がその本に腰かけていたから、手に取った。その中には「あること」が書かれていた。 我が子を食べる鬼の話だ。 でも本当はその人は鬼なんかじゃなくて、ごく普通のやさしい人なんだ。かわいい奥さんがいて、親切な友だちもいる。でもその人は、子どもを食べるのをやめられない。 私は「これは本当のことだ」と思った。 こういうことは本当に起こるんだ。そしてそれは今も起こってる。 ほんとうのほんとうの真実というもの――私はその本をソッと書棚に戻した。その本の中身は誰にも秘密にしておこうと思った。その本を読んだことを忘れたいとさえ思った。 どうして私はそんなことをしたんだろう。せっかく真実を知ったのに? だってそれが本当なら――私も鬼に食べられてるってことになる。 私の周りに黄色くどろどろとしたものがはびこっている。私はそれに首までどっぷりつかっていて、もう身動きができない。 何かとても大事なものが私から損なわれていて、しかもそれは私のせいにされる。 「何もかもおまえのせいだ」「あんたが悪いんでしょ」「おまえがかわいいから、しょうがないんだ」パパとママはいつもそんなことばかりをいっている。 やめてよ! なんでいつも私が悪いって、そればっかりいうの? パパとママは、本当に何も悪いことをしていないの? 私の周りにはたくさんのヒントが転がっていた。 ママはパパがいない時、私に「早くパパが死んでくれたらいいのに。そしたら生命保険金をもらって楽しく暮らせるのにね」といってくる。パパはいろいろな本を持っていて、私と同じくらいの年の女の子が裸でおかしな恰好をしている写真集を見せてくれたことがある。 家族みんなは楽しそうに笑っていて、後から後から日常というものがやってきて、私はそれに押し流されてしまう――そんなの言い訳だよ。最初からすべての答えはただそこにあったのに。 ――私の手の中には金の鍵がある。 それは重くてずっしりとしていて、南京錠にぴったりと合いそうだった。 私は最初から鍵を手にしていた。妖精たちは私にヒントを差し出してくれる。鳥の鳴き声が私を導く。 それなのに私はずっと何も見ない、聞かないふりをしていた。だって本当のことを知れば、世界はバラバラに壊れてしまうだろうと思ったから。 だけど、もういい。 今日は世界が終わる日なんだ。すべてのものがなくなって、まっさらに生まれ変わる――私はそうなりたかった。とても。
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