なぜ私はあんなにも塔にのぼりたかったのか。 そこには何かがあると……それはよいこと? わるいこと? でもどちらにせよ、私の世界を変えてくれる。それはとても冷たくて、澄んでいて、私は一人で誰にも邪魔されずに……。 ――思い出した。 小さい頃、私は塔を見て「あそこから落ちれば死ねる」と考えた。だからのぼりたかったんだ。だってパパとおフロに入るのはとてもイヤだったから。なのにイヤといっちゃいけないような雰囲気があって、私はなにもいえないままだった。 そんないくじなしの私を殺したかった。 世界が終わるまでには絶対そうしたいんだ。それに私が死んだら、パパはきっと……。 ハーピーはけたたましく笑いだした。 「あなた、自分の死体を見た父親が『自分のせいだ』って反省することを期待していたでしょう? そんなはずないわ。あの男は、あらゆる意味で自分を傷つけない、まったく無力な、かつ自分を尊敬する女を求めているの。一言もしゃべらなくなったあなたは大歓迎よ。棺をあけて、あなたが腐るまで犯し続けるでしょうよ」 みんなで公園に行った時、パパは私に肩車をしてくれた。遠くの海まで見渡せてとてもきれいだった。 「ええ、ええ、もちろん『愛している』というでしょう。あなたが可愛いからそうするのだとも。あなたを犯しながらおいおいと泣くの。『ああ、娘を失ったぼくは世界でいちばんかわいそうな男だ!』って。そして妻を引き寄せ二人目の娘を作ろうとするでしょうよ。妻はそれに逆らわない。ええ、間違いないわ。今までだってすべてそうしてきたでしょう?」 ママは毎日笑顔で美味しいご飯を作ってくれて、そしてとめどもなくパパの愚痴を言い続ける。 「お母さんはあなたが犯されるのを笑って見てる――娘を犯す夫のいる、みじめでかわいそうな自分になりたくないから? 面倒くさいことからはすべて目をそむけていたいのかしら? 人生に不満だらけで、自分よりひどい目にあった人がいるのがうれしいのかしら? ここぞという時にあなたを傷つけることで、自分の支配力を実感しているのかしら? まあいずれにしても、あなたを守るつもりは全然ないっていうことよね」 ドアの外ではパパが「ずるいぞ、なんでおまえだけ?」「おまえなんて何もできないくせに!」と叫んでる。何を言いたいのかわからない。ただ、父親のセリフではないということだけは確かだ。 私は頭がすっと静かになって、ハーピーに尋ねた。 「私はどうすればいいの?」 「この場所から立ち去りなさい」 「でも! 私はまだ子どもで……何もできない。パパのいう通りよ」 「そうでもないわよ」 ハーピーは窓のへりをちょんちょんと歩いて、そこから電線の上に飛び立った。
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