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 ……ぼくはカッターを下ろした。あいつは何いってんだ?  起こったことってなに? そう、たとえばぼくが窓ガラスを壊したこととか。アキラがケンタとリョウから殴られてることだとか。  そのことを考えると苦しい。頭の中に何かがサラサラとたまっているみたいだ。砂の音……ぼくは自分の耳に砂をつめこみたい。そうやって、ただ静かに眠っていられたなら。あいつのいうことも、学校での血まみれも見なくてすむじゃないか? それから、母さんの突き放したような顔も――。  頼むよ、お願いだからぼくを放っておいてくれ。  ぼくは何ひとつ見たくないんだからさ。  さて、またぼくのクラクラするような学校生活がはじまる。  教室に入ると、みんなの体がどろどろにくさっていた。青黒くなったり紫になったり。それはそれでめずらしいといえないこともなかった。  ぼくとみんなの間には、透明な壁ができているみたいだった。ああ、ぼくがガラスを割ったから? 無視するべきか、いじめるべきか考えてるってところ?  まあ、おかげでぼくは今までより、周りを冷静に見られるようになった。このクラスは問題だらけだね。授業中にどこかへ行く生徒が何人もいて、先生もそれを注意しない。そして先生は、いちばんおとなしくて、何もいえなさそうな女の子の体をまさぐっている。男の子をいじめる女の子たち、女の子をいじめる男の子たち……もう何でもアリだなあ。  ぼくは「友だち」の姿をぼーっと見ていた。  休み時間、教室の後ろにあいつらがいる。ケンタは笑ってる。リョウも笑ってる。だけど……小突かれるアキラは笑っていなくて、困ったような顔をしている。  また何かのことでからかわれてるのかな? どうせ冗談なんだから、気にしなければいいのに。  ケンタは、どこからか大きな剣を持ち出してきた。まるで博物館に置いてあるみたいに重そうなやつだ。そんな剣で刺されたらきっと痛いだろうね。  アキラはもうすっかり死を覚悟したみたいに、じっと動かないでいる。  でも大丈夫じゃない? 次の瞬間には、みんな何事もなかったように笑っているはずさ。  これまで、ぼくはアキラが殺されるのを何十回も見てきた。ということは、アキラだって何十回も生き返ってるってことだ。どうせこんなの、ニセモノの世界のことだ。心配する必要はないよ。  ふと、ぼくはアキラと目があった。  その目の色……。  アキラはフッと目をそらせる。何も期待していない瞳……ぼくはそんな目をどこかで見たことがある。何度も何度も。どこでだろう?

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