昼と夜の子どもたち
ハーピーとわたし 6

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「あなたが父親と寝てるのは間違ったことだわ」  私はいきなり刃物で斬りつけられたように感じた。 「どうしたの? そのことについて知りたかったんじゃないの? まあ、あなたは寝てるというより、ただじっとしてされるがままになってるんだけど」  それからハーピーは美しい声で歌うようにいった。  ――あなたは最初「これはなんだろう」と感じた。「みんなやってることなんだよ」といわれて「そういうものか」と思った。だけど「ママには秘密だよ」といわれて、ますますヘンな気がした。それに、まわりのみんなは誰もそんなことしていない。幼稚園で、小学校で、そんなことをしている人たちは誰もいない。あなたは、そのことをどう考えたらいいのかわからない。これは私が何かよくないことをしたから? そう、周りの大人たちは「ちゃんと」していれば悪い大人に出会わないっていってるものね? だったらそういう目にあったのは、つまりあなたが悪い子だからってことに……。 「やめてよ! なぜそんなことばかりいうの!」  私はハーピーに「嘘いわないで」とはいわなかった。それが答えだ。 「うらまないでね? あなたはそういう状況に置かれているの。それをごまかしたりしても何にもならないわよ」 「知ってるの? どうして……」 「私は真実を告げる鳥だもの」  私はハーピーをじっと見つめた。彼女はスズメのように逃げ出したりはしなさそうだった。 「じゃあ……助けて! お願い、私を助けてよ。パパにやめるようにいって!」 「いったところで、ききゃしないわよ。それで改まるような人間だったら、そもそも最初から娘に手を出そうなんて考えないし。――ああ、そうだな。確かに悪いことをした『かも』しれないなあ、だけどそれがどうだっていうんだ? それくらいたいしたことないだろ? そんなことくらいで傷つくおまえがひ弱なんだ――って、叱られるんじゃないの?」 「……」 「こう考えてみたらどう。どうすればあなたはあなたを助けられるのかしら?」  ハーピーは、私がこの世界で出会ったはじめての理解者だった。私のつらい状況も、私の気持ちも、すべてわかってくれる人――だけど彼女は、これ以上なく冷たく私を突き放した。  結局、世界の終わりはやってこない。  私はむしゃくしゃしながら塔をおりる。暮れかけた夕日を背に、もときたトンネルを抜けて家に帰ろうとした。 「ねえ?」  公園の警備員さんかな。それっぽい紺の制服を着たおじさんが、トンネルの出口にたちふさがった。 「私にはわかるんだよ……しるしのついている子が」 「え?」  おじさんは、パパと同じ目をして笑っている。 「君は大人のいうことをきくとっても良い子だね、そうだろう? いやいや、大丈夫。ただお菓子をあげるだけだから……こっちへおいで」  ――逃げなきゃ。

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