昼と夜の子どもたち
ハーピーとわたし 9

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 電気をつけようか? でもそしたら明かりがもれて「起きてたのにどうしてあけないんだ」っていわれるだろう。そしてドアをあけたら――とにかく「私が悪いんだ」ってことになる。  ママは何をしてるのかな? 何を見るつもりも聞くつもりもないんだろう。あるいは「鍵なんてしめるから、パパが怒るのよ」っていうだけだ。どうして私が鍵をかけるのか、なぜパパが私の部屋に入ってくるのか、その理由をきくつもりは一生ないんだね。  それとも――もしかしてすべてを知ってる? そしてそれを笑って見てるの? 私は、心臓をぎゅっとつかまれたような恐怖を感じた。本当にどこにも逃げ場がない。  どうしよう。私の部屋にある鍵はほんのちっぽけなやつだ。すぐに壊れちゃう。 「大丈夫よ」  ハーピーの声だ! 姿は見えないけど、すぐ近くにいるって気がする。 「なーに、この騒ぎは?」 「パパが……」 「自分の欲望が今すぐ満たされないので怒り狂っているというわけね。そして母親もそれを傍観。あらあら、厄介ねえ」  私はハーピーのとぼけたような言い方に、なんだかちょっと笑ってしまった。 「ねえ、どうしたらいい?」 「あなたの腕力じゃ勝てっこないわね」 「私はふつうの女の子だからナイフを持っていちゃいけないの? 鍵のある部屋にいるのに、鍵をかけると怒られるの? そしてもし悪いことが起こっても、なにもかも私が悪いんだってことにされなくちゃいけないの? ねえ、こんな目にあうのは私のせいなの?」 「いいことを教えてあげましょうか――外を見てごらんなさい」 「え?」  カーテンの向こうには、月明かりに照らされたハーピーの姿があった。 「ハーピー、そこにいたの」  窓をあけてみて驚いた。  明るい月の下、ざあっと紺碧の海が広がっている。あともう少しで、私の部屋の窓まで届きそうだ。 「世界は今日の深夜に終わるの。小鳥たちはそこまでいってなかったのね」  世界が終わる――それじゃあ、もうこのすべては終わるんだ。 「ほんと、よかった! じゃあ……」 「でも、あなたの世界は終わらない」 「どうしてよ! もうここまで海がやってきてるじゃない」  ハーピーは困ったように笑った。 「だって、あなた、甘いんだもの! 結局、あなたは今の世界を信じてるんでしょう。何かひとつが正されれば、それですべてがよくなるって……ねえ、あなたはまだ真実がわかっていないわ。答えはすべてあなたの前に出揃っているのに」  私はハーピーの言葉に戸惑った。  いつかこの世界の過ちは正されるのだと――そう思って何がいけないというの? だから私は塔にのぼりたいと――世界が終わる前に絶対あそこへ行きたい。  私の前にお風呂場の湯気のようなものが立ち込めている。まだ何かが見えていない……。

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