昼と夜の子どもたち
お誕生日 12

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 もしかしたら、ぼくはずっと前から世界が壊れればいいと思っていたのかもね。この絶え間なく続く世界、そこでノンキそうに暮らす人々、別に何てことない日々のかたまり。  だけど、ぼくにとって毎日の生活は綱渡りそのものだった。いつでもぼくは誰かに点数をつけられていて、そして「不幸」にならないように必死に気を配っていた。そうするのは当たり前だろ。だってぼくが良い子でなくなったら、苦しんで悩んで泣くぼくになったら、誰もぼくを相手にしてくれないんだから。  だったら、つらいことは何も見ない方がいい。  決まってるよ。 「おまえって、ひどいやつだよな」  少し離れたところからあいつの声が聞こえてくる。どこにいるんだろう? ああ、ぼくは雪の中を引きずられているんだな。あいつに殴られて……なんでそんなことをするんだ。あいつも、アキラみたくぼくを憎んでいるのか。 「不幸になっちゃいけないってのか?」  ぼくはまだ何かを考えられる。  だから、あいつの声に色々なことを思った。  そりゃあ……そうなんじゃないの? ぼくにはこれまで色々なことがあった。父さんと母さんの仲がよくないなんてこと、ずっと前から気づいていたよ。いじめたこともあったしいじめられたこともあったし、楽しいばかりの人生じゃなかった。  いつも「ぼくは幸福なんだ」って信じようとしてた。  みじめなことが起こった。それはまあいい。だけど、もしぼくがそのことに傷ついてたとしたら……本当に悲しくなってたとしたら……ぼくは『本当に』みじめになっちゃうじゃないか? 「さあ、ついたよ」  そいつはぼくを引きずるのをやめた。  しばらくしてから、ザッ、ザッという音。  これだ。  耳に聞こえていたあの音。  ぼくは首を傾けて、音のする方向を探った。あいつがシャベルで土を掘っている。ぼくは急にとてもこわくなった。 「やめてよ! ぼくを殺すんなら殺したっていい。だけどうめるのはやめてくれ。冷たい土の中で、一人でいろっていうのかい? おい、やめてくれよ。ぼくはまだ生きてるんだ!」  でもぼくの声は、ぜんぜん届かなかった。  穴はみるみる間に広がって、ぼくはその中にどさっと放り込まれる。 「……いやだろ? でもおれはずっとここにいたんだ。おまえもちょっとくらいガマンしろよ」  ぼくの顔にざらざらと土がかけられていく。

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