昼と夜の子どもたち
見えない友だち 9
ここは夜の学校だ。 月の光がさしこむ廊下をひたひた歩いて、いちばん真っ暗な場所をめざす。ぼくは屋上へと続く階段を探している。夜よりもずっと暗い場所。手探りで階段をのぼっていく。踊り場から上は、真っ暗で、もっとずっと上まで、暗い空間が続いているみたいだ。 ぼくにはわかった。今日が、ポーとのお別れの日だ。 ぶあつい鉄の扉の鍵が外されていて、そこからほんの少しだけ、夜の青い色がのぞいていた。 もうぼくはポーを呼ばなかった。 ポーはぼくの背中から出てきて、扉の前でちょっとふり返った。小さなピンク色のボールのようなもの。はじめて思った。ポーは意外に小さい。はじめて会った頃は、ぼくの体の半分くらいもある、モサモサしたもののように思ったけれど。 ぼくは心の中で「さよなら」とつぶやいた。 そして思い出した。今度こそはっきり思い出した。いちばん最初にポーが教えてくれたことだ。 「死ぬってどういうこと?」 「もう会えなくなるってことだよ」 ぼくは思い出せる。あの世界のことを。何度忘れても、きっと思い出せる。何もかも忘れてばかになったぼくは、新しい世界を次々に発見して、そしていつかすべてのことを思い出すだろう。そのとき、ぼくはポーとまた会える――音もなくゆっくりと扉がしまる。 (おしまい)
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