Scene 7

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 失踪の原因が分かったところで行く当てもなくなった僕は、養成所の周りを適当に走り回り、ケンチを探していた。こんなことをしていても見つかる筈はないと分かっていたが、いてもたってもいられなかった。  そんな僕の足を止めたのが剛からの着信だった。 「もしもし、まさき。どうやらケンチ本当にヤバイっぽい。さっき鈴香に連絡とってみたんだ。そしたら鈴香、泣きじゃくっててさ。話を聞いたら、昨日ケンチから一方的に別れのメッセージが来たらしい。返信しても既読は付かないし電話も出ないって。聞いてるか、まさき。一度、戻ってこいよ」  鈴香は地元の仲間でもあり、ケンチの彼女だった。何故もっと早く言ってくれなかったのかと責めたい気持ちになったが、ショックのあまり憔悴して、それどころではなかったらしい。  今は東京駅から地元へ帰る新幹線に乗っている。  座席でケンチの家から持ってきていた笑報をパラパラと捲っていた。ケンチがお笑いにどれだけ向き合い、努力してきたか。すぐに分かった。ノートを捲る手が進めていく。すると見返しの部分にもぎっしりと文字が書かれていた。  ケンチの、ケンチの想いの全てだった。僕は思わず息を呑んだ。そこにはこんなことが書かれていた。  失踪の原因が分かったところで行く当てもなくなった僕は、養成所の周りを適当に走り回り、ケンチを探していた。こんなことをしていても見つかる筈はないと分かっていたが、いてもたってもいられなかった。  そんな僕の足を止めたのが剛からの着信だった。 「もしもし、まさき。どうやらケンチ本当にヤバイっぽい。さっき鈴香に連絡とってみたんだ。そしたら鈴香、泣きじゃくってて。話を聞いたら、昨日ケンチから一方的に別れのLINEが来たらしい。折り返しメッセージ送っても既読も付かないし電話も出ないって。聞いてるか、まさき。一度、戻ってこいよ」  鈴香は地元の仲間でもあり、ケンチの彼女だった。何故もっと早く言ってくれなかったのかと責めたい気持ちになったが、ショックのあまり憔悴して、それどころではなかったらしい。  今は東京駅から地元へ帰る新幹線に乗っている。  座席でケンチの家から持ってきていた笑報をパラパラと捲っていた。ケンチがお笑いにどれだけ向き合い、努力してきたか。すぐに分かった。ノートを捲る手が進めていく。すると見返しの部分にもぎっしりと文字が書かれていた。  ケンチの、ケンチの想いの全てだった。僕は思わず息を呑んだ。そこにはこんなことが書かれていた。 【俺が皆んなを笑わせようとしたら、俺の想定してた二倍くらい皆んなは笑ってく  れた。それを見て俺も笑う。笑顔は伝染していく。それを知った時、多くの人に  笑顔が届けられる芸人になりたいと思った。その事を皆に話すとお前なら絶対い  ける。希望の星だなんて声を掛けてくれた。だから俺も絶対売れっ子芸人になれ  ると思っていた。  養成所に通い始めてから数年。俺は井の中の蛙だということを思い知らされる。  養成所の狭いレッスン室で講師と同期の前で毎日のように考えてきたネタする。  だけど俺のネタでは誰も笑わない。講師からも目を付けられ、何故か俺だけ毎日  のようにダメ出しされる。同期はそんな俺を見てクスクス笑っている。講師の本  心はどちらにしろ「俺はお前の為を思っていってるんだ」と言われたら、親に高  い学費を払って貰って入学した手前、耐えるしかなかった。  俺は毎日笑報を書いている。その日に身の回りであった面白かった出来事や思い  浮かんだネタなどを書きためておく未来の自分への報告書のようなものだ。  ダメ出しされたことは反復して練習し、バラエティ番組を見ては芸人のツッコミ  の間やボケのタイミングなどを学んでいる。  だが、何一つ手応えのようなものが実感として現れたことがない。俺のしている  ことは正しいのか、俺が進んでいる道はあっているのか。分からなくなって、不  安になる。  そんな毎日の日々の中で唯一の支えだったのが相方だった。養成所に入って初め  て話したのが相方で、同じ地下芸人が好きだったことと、好きな女の仕草が同じ  だったことで意気投合し、すぐにコンビを組むことになった。笑について同じ目  線で同じ熱量で語り合える友達が出来たのことが嬉しかった。だけどその相方に  も裏切られた。俺は一人ぼっちになった。いや、元々一人ぼっち  だったんだ。俺は俺が存在している意味が分からなくなった】   僕は何度も頭を掻き毟る。いつの間にか笑報は涙で滲んでいた。  テレポーテーションも瞬間移動も使えない。会いたい人に会いたい時に会いにも行けないで、何が科学だ、文明だと、僕は憤りのない怒りをあらぬ方向へぶつけたりもした。だけど、そんなことをしても現実は変わらない。  通路を歩く車掌さんを僕は思わず呼び止めていた。 「お願いです。もっと速度を上げてくれませんか……」    車掌さんはキョトンとした顔をする。分かってる。迷惑を掛けていることも。意味がないことも。でも止められなかった。気付けば車両に響き渡るくらいの大声を上げていた。 「お願いです。お願いです! 命がかかってるんです」  車掌さんの腕に縋り付くように、僕は泣き崩れていた。

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