声
Scene 9
新幹線を降り、電車を乗り継いで地元の駅まで辿り着いた。 改札を出るとロータリーに車を止めて剛が待ってくれていた。軽く手を挙げて挨拶を交わし、車体の大きな四駆の助手席に乗り込む。後部座席には鈴香もいた。前から来た車のライトで車内が照らされる。 「まさき、泣いてたの?」 僕の顔を覗き込んでくる。泣いてないよと見栄を張るのもカッコ悪いような気がして僕はただ黙り込む。 「二人とも、気持ちは分かるけどさ。大丈夫だよきっと。俺、明日も仕事だし、ササっと迎えに行って帰ろう」 二人ともと言われて後ろを振り返ると、泣きじゃくって目を腫らした僕の二倍くらい、鈴香の目は腫れていた。 「迎えに行くって言っても、何処に行けばいいんだよ」 「心当たりが一つだけあるんだよな?」 剛が後部座席を振り返って言った。僕ももう一度鈴香の方に目を向ける。 鈴香は小さく頷いた。 「ケンくんがお気に入りだった場所があるの。一生を終えるならここが良いって言ってた場所が」 僕達は最後の希望に掛けて、その場所へ向かった。
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