Scene 1

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【真っ暗な道を手探りで歩いている。  行きたい場所は決まっているけど、何処を歩いているのかも分からないまま。なりたい 自分。やってみたいこと。この世の中は、俺の世界は、希望に満ち溢れている。  希望を見つけられない人が俺のことを羨ましがることもある。  だけど、光は強くなるほどに影は黒くなり、理想が膨らめば膨らむほど、現実に打ちのめされる。人生で起きる物事全てに手順書と解答用紙があればいい。  「そんな物があったら面白くない」と言う漫画の主人公のような人もいるかもしれないが、俺はそこまで馬鹿にも勇敢にもなれない。  自由が俺を不自由にする。可能性が俺を惨めにする。   希望と絶望は常に大気の中をプカプカと浮かんでいて、どちらにもぶつかる時もある。苦しいがずっと続く訳ではない。  でもこんな繰り返しの日々を過ごしていてもきっと意味がない。  絶望にぶつかった、今がその時なのかもしれない】  ーーページいっぱいに書き殴られたノートを閉じ、僕はケンチの家を飛び出した。  *****  住宅街を縫うよう細い道。タイミングよく通ったタクシーを捕まえて飛び乗った。「行き先は?」とドライバーに聞かれて冷静になる。  どこに行けばいいのだろう。  候補はいくつかあるが、何処に行くのが正解か。考える時間もあまりなかった僕は、とりあえずケンチのバイト先だと聞いていた駅前のラーメン店を指定した。  イメージしていた都会とは違う閑散とした街が僕の不安を煽る。身体中がガタガタと震え、心臓から押し寄せた恐怖が食道を競り上がり、何度も口から飛び出そうになる。  シワの多い人の良さそうなドライバーが声をかけてくれるが、答える余裕はなかった。  一ヶ月前から音信不通になっていたケンチの家に足を運んだ。綺麗に表現すれば男らしい、物が乱雑に散らかったワンルームに佇む折り畳みの小さな机に『笑報』と書かれたネタ帳があった。その最後のページに書いてあったのがあの書記だった。最悪のケースが思い浮かび、頭から離れない。  どうか無事でいてほしい。  タクシーの後部座席から何度も神様に祈り続けた。  でもケンチはなんで......。  そう考えた時、三ヶ月ほど前の出来事が嫌でも頭に思い浮かぶ。

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