ゴゥストライタァ
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あれから毎晩、眠気と闘いながらネットの小説投稿サイトに高子さんの小説をアップした。 高子さんは本棚やパソコンから見せた知識だけでかなりのアップデートをしたようで、今時のライト文芸テイストに寄せてきた。才能のある人というのは吸収力が抜群で、柔軟さや順応性も高くて感嘆する。 指が攣りそうなほどの速度でタイピングさせられヘトヘトだが、編集をやっていてこんなに満ち足りた気分になったのは初めてだった。彼女の書きたいという情熱につられて鼓動が躍る。 寝不足の毎日だし疲れもピークだった。しかしそれはスポーツを楽しんだ後のように爽快な疲労感だった。 ネットの反応は上々で、感想やレビューがどんどん書き込まれている。 「高子さん、俺もう一度かけあってみます」 「これで充分ですョ」 高子さんはそう言うが、成仏していないのはまだ納得がいかないからだろう。やはり本は紙にしてこそと俺も思う。 * 「編集長。今度こそOKをいただきたいんです。責任はとりますから」 手渡した原稿を無言で睨む編集長が、読み終わると深いため息をついた。くそっ、ダメか…… 「ぺーぺーのお前にとれる責任なんかねーよ。コレを出す責任は俺がとるもんなんだ」 「あ、ありがとうございます!」 思わず高子さんに小さくガッツポーズをしたところを同僚に見られてしまった。また親指を出して拳を挙げてきた奴に、今度は俺も親指を立てて笑顔で応える。やってみたらなんのことはなかった。だけどたったそれだけで立てた親指のように背筋が伸びて視界が広く、明るく開けた気がした。
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