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「編集長! これ読んでいただけませんか」 「朝からそんなハイテンションとか雹でも降るんじゃねーの」  編集長の前で高子さんのほうを向くと、例の同僚売れっ子と目があった。爽やかな笑顔で親指だけ立てた拳を小さく挙げている。なんと返していいか戸惑って堅い笑顔を返した。こういう社交的なところが俺には欠けている、とは常々思う。  けれどもこれが、この本が出せさえすれば、きっと俺にも運が廻ってくるんじゃないかという不思議な高揚感が湧いてくる。昨日までのモヤがかかったような気持ちがすっかり晴れ渡っていた。 「これ、どっから?」  パラパラと一通り目を通した編集長が口を開いた。 「えと、知り合いがですね」 「あっそ、知り合いじゃ言いにくいだろうけど。無理」 「え、でもこれすごく良く書けてますよね。ここから少し直してもらいながら――」 「書けてても売れねーよこんな古臭いの。これで最後になるぞマジで」 「……失礼しました」  相変わらず編集長はバッサリだった。古い他には理由もなし。高子さんは俯いている。自分の中の自信に似たさっきまでの高揚感も褪めていくのを感じた。   だけどこの小説はどうにかして本にしたい。それで成仏してもらわなければ困るのだ。何より、この迸る情熱を世に送り出さなければならないと思った。

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