叶わない恋を叶える方法
【第二章】恋をする人たち(3)

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 真理亜から「夕方つき合って」と言われたのは月曜日の三時限目の終わりのこと。今日は声優倶楽部があるはずなのに。  眉をひそめる私に、 「今日はサークルを自主休みする」 なんてあっさりと言うので、あのアニメを見た日を思い出してしまう。  主人公のネコは事件を解決できただろうけれど、あの涙は謎のまま私のお腹に残っている。  またなにかあったのかな……。  気おくれする私に気づいてか、真理亜は「違うよ」とかわいい声で言う。 「一緒にレインへ行こう」 「なんで?」 「だって、体調観察で今日までコンビニのバイト休みにしたんだよね? 明日は三時限目からだし、そうなればレインに行きたいってものでしょ。あたしも今日はバイトないし、たまにはお客さんとして行こうよ」  ざわざわと音が渦巻く講堂から、どんどん学生が去っていく。 「でも、今日は寝てようかなって」 「中村さん心配してたから」  立ちあがりながらそんなことを言ってくる。ポニーテールを確認するようになでると真理亜は「ふふ」と声にして笑う。 「どうせ家にいても気になっちゃうんでしょ」  言われるとそんな気もする。これまでも『お肉食べたいでしょ』『トイレ行きたいでしょ』など真理亜の『でしょ』は魔法の言葉みたいに私をその気にさせてきた。川の流れにぽんと乗せられするする流れていくような気分。 「ていうかさ、やっぱあたしも心配だし」  下条さんの病院へ行ったことがバレたのかとドキッとする私に、「だってさあ」と真理亜はリュックを背負った。 「今年に入って二回も倒れてるんだもん。本当に寝てるつもりなら無理にとは言わないけど」  テキストをカバンにしまうともう夜の闇に浮かぶREINが恋しくなっていた。私ってこんなに単純だっけ? 「じゃあ行く」  校舎を出ると足元で緑の葉がくるくる踊っていた。紅葉じゃないのが惜しい。次の授業は午後からなのでこれから学食でランチの予定。今ならまだ空いているだろうし、窓側の席でのんびりするのも悪くない。 「結局、病院でも詳しい原因わからないままなんだよね? それって困るよね」  隣を歩く真理亜が聞いてくるので「うん」とうなずく。 「様子を見ましょう、だって」  無表情でそう言った下条さんの顔が浮かぶ。まるで興味のなさそうな顔だったけれど、あれくらいじゃないと医者は務まらないのだろうな。いちいち感情移入していたら疲れるだろうし……。 「様子を見ててまた倒れたら大変じゃん」 「次からは救急車呼ばなくてもいいみたい。たしかに目覚めるときって、ぐっすり寝たあとみたいにすっきりしてるし」 「いや、あたしたちが困るんだよ。目の前で倒れた人がいてほっとくわけにいかないでしょ。それにさぁ……」  ふん、と鼻を鳴らす真理亜が、キュッと口を閉じた。そのあと、ふうとため息をつく。一年半のつき合いでわかること、こういうときの真理亜はなにか隠している証拠。  自分でも気づいたのか、軽く首を振ってことさら元気に歩く真理亜。 「真理亜、なにか隠してるよね」 「なにがー? なんにも隠してなんかないもん」  声優の演技力は伊達じゃない。しっかりと目の動きや唇を観察しながら、 「してるよね」  語尾に力を入れると、真理亜の目がかすかに揺らいだ。  ほら、やっぱりそうだ。  観念したように足を止めた真理亜が、迷うように押し黙った。 「あたし、倒れる原因に心当たりがあるんだよね」  小さな声で言った真理亜。  思ってもみなかった言葉に固まってしまう。 「自分でも思い当たらないのに、どうして真理亜が知っているの?」 「だよね。でも、そうなんだ」  よくわからないことを言って真理亜は再び歩き出す。 「待って。どういうことか説明してよ」  食堂に入ると、真理亜はいちばん手前にあるテーブルに座り意味深に私を見てくる。前の席につくと、観念したように上目遣いになった。 「倒れる原因って、ひょっとしてあの人じゃないの?」 「あの人?」  聞き返しながら胸をわしづかみにされた気分。  中村さんへの恋心はずいぶん前に真理亜にバレている。彼女が言うには、私は感情が態度に出すぎているとのこと。  最近は気をつけているつもりだったのに、やはり真理亜にはわかっちゃうんだろうな。   ブルーな私を知らずに、 「矢井田さん」  真理亜は違う人の名前を口にした。

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