真理亜を見ているとゲームのキャラクターを思い出す。マリオでもソニックでもなんでもいいけど、ちょこまか動き回るやつに限る。 大学でもバイトでも、真理亜はいつだって忙しそうで、スケジュール帳を埋めるために生きているみたい。「忙しい」と嘆く顔がまるで勲章を受け取ったみたいに晴れ晴れとしていて、私はうらやましいと思う反面、生きにくそうだなと思ったりした。 最新のアニメを見てはいちいち感想を言ってくるので、だんだんと私も詳しくなった。といってもあらすじを聞くだけで実際には見ないからあくまで想像だ。 アニメの世界はいつだって大変そう。私よりも年下の主人公たちが、異世界に転生したり悪者と戦ったり、困難な運命に翻弄されている。 一度だけ真理亜の家に呼ばれたことがある。 その日の彼女はどこか変で、バイトもサークルもキャンセルしたと言っていた。 真理亜の家は柳津町のイオン横という好立地にあった。二階建ての白い壁がくすんだ家。 「建ったときは真っ白だったの」 言い訳のように言った真理亜に「ふうん」と答えたのを覚えている。 自分の部屋へ案内した真理亜は、その日あからさまに口数が少なかった。部屋はお世辞にもきれいとは言えず、アニメ雑誌やDVDがフリーマーケットのように絨毯上に並んでいた。 六時からはじまったNHKの子供向けアニメをふたりで並んで見た。いつも座っている場所なのか、そこだけ絨毯がへたっていて腰が痛かった。 アニメの内容は、ネコである小学三年生の主人公が、学校で起きた事件を解決するというもの。電気もつけず真剣な表情で見ている真理亜の顔がテレビの光でいろんな色に染まっていた。 朝から無口な彼女に違和感を覚え、だけどその理由を聞くのがはばかられている状況。なんでこんなアニメをふたり肩を並べて見ているのか不思議だった。 「このあとのシーン」 沈黙を破るように言った真理亜。画面では、犯人を追いかける主人公のネコが『待つニャー』と叫んでいる。 めまぐるしく校舎のなかを走り回る主人公に『こら、廊下を走らにゃいよ!』メガネをかけた教師と思われる女性ネコが注意をした。 ぷつん、とテレビの電源が切られた。 「え、なに?」 尋ねると真理亜は肩でひとつ息を吐いた。 「今の、あたしの声」 「え、本当?」 「うん」 へぇ、と驚き、すぐに感動する私に真理亜は立ちあがって電気をつけた。そして「もうこの話はいいよ」と言った。 「よくないよ。だってすごいじゃん。アニメに出たんだよ!」 興奮収まらない私に彼女は笑ったように見えた。 けれど、よく見ると泣いていた。大きな瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。そして、やっぱり笑った。 あまりの衝撃に、私はなんにも言えなかった。 なんで泣いているのかわからなかったけれど、それ以降、真理亜はテレビに出演しても、私には教えてくれなくなった。あとで、思い出話のように軽く口にする程度。 そして、前以上にちょこまかと毎日を忙しく駆け回っている。
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