掌小説
さくら

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 さくら色のフラペチーノを買った。テラスから店外に出ると、芝生の先に広大な川が広がっている。平日の午前十時。小さな子どもを連れた親子か、老人がまばらに歩いている。薄水色の空。灰色がかった突き抜けない空の色に日本を感じて、テラスのステップを下って川べりに歩いて行った。  十二センチヒールの黒のベルテッドパンプスを履いてきてしまって、芝生に埋まって転んでしまわないか心配になる。だけど、そんな不安を微塵も感じていないふりをしてずかずかと歩いた。膝上二十センチのタイトスカートを、めいっぱい伸ばして。  走り回る小さな女の子と、追いかける母親。黒く沈んだ川を見ながら仁王立ちで、ストローを吸った。  甘いものは得意じゃない。頭がぼうっとしてしまうし、最初の二口くらいで満足してしまう。フラペチーノは腹いせに買ったものだった。ありがちで話のネタにもならないようなくだらないことを、やはりありがちに真正面から受け取ってしまってダメージを食らい、やけ酒なら昨夜終わらせて、友達の家に泊まって、朝学校へ行くと言う友達と途中まで一緒に行って、私だけここに向かった。  やっぱり甘すぎる。お腹も冷たくなっていく。太って肌も荒れるかも知れない。それでも美味しくて、気付けば飲み干していた。  はーっと息を吐く。その息がさくらのにおいになっていた。  それだけで、自分がかわいい女の子になった気がした。  吐息がさくらのにおいなら、大丈夫。きっとこれからもなんとか生きていける。  また、彼氏も、できるかも知れない。優しくて、思いやりがあって、お互い好き合って、ずっと見つめ合っていたくなるような人が。  浮気をされていた。というより、私と付き合う前から付き合っている人がいたという状況だったから、私の方が浮気だったのかも知れない。  こんな恋愛、早く気付けてよかった。そう思い込まないと、当面の間だけでも、生きていけそうにない。  強く生きていきたいと思う。  ゴミを捨てるために、店内に戻った。わずかに残った液体を別で流し、プラスチック容器をかしゃんと捨てる。フラペチーノ。一年に一回くらいは、いいかも知れない。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません