農園のパンフレットは手作りだった。パソコンとインクジェットプリンターで作ったものだ。 「無農薬・有機農法のまい農園から新鮮で安全なお野菜を食卓にお届けします！」こんなタイトルの横に、新堂樹しんどういつき様とわざわざ手書きで記してある。眺めていた彼の目がそこで釘付けになった。その筆跡に見覚えがあったからだ。 まさかこの字は。真衣まいなのか。いやそんなはずはない。結婚してからこの新居へ移った。だからここの住所は彼女は知らないはずだ。 「ねえ。ねえってば。どうかしたの。なんだか変よ。あなた」 考え込んでいた彼はハッと我に返った。心配顔の妻へ「なんでもないよ」とごまかす。