お婆さんは唄い続けた。 「♪こっちゃに寄れ寄れ 縞のあや ♪あっちゃに散れ散れ 縞なしこ」 そして虹子も一緒に唄い出した。 「♪玉女にかかりゃあ なんのその ♪Through the age Through the galaxy」 スルージエイジ、スルーザギャラクシーの部分で、二人は見事なハモりを見せた。 何周か繰り返したあと、虹子が「どう?」と言わんばかりの表情を向けてきたので、拓人は反射的に「さすが」と返したが、最後に唐突に出てきた「時代を超えて 銀河を抜けて」という歌詞が気になっていた。コンタクト漁の唄だったはずなのに、急に銀河がどうとか大袈裟すぎるし、しかも英語だ。本当に八十年前から唄い継がれている唄なのだろうか。 「良い唄だよね。玉女っていうのは、お婆さんみたいに、コンタクト漁をする女性のこと」 「へえ」 「ほら、拓人、私たちもやろう」 虹子は緑色の熊手を拓人に渡し、自分はピンク色のそれを持って、お婆さんから少し離れたところで玉を獲り始めた。 大学の卒業旅行で一度体験したにせよ、虹子の豊富な知識と行動力に少しだけ怖くなった。彼女はなんでそんなことをということをよく知っている。普段は拓人とバカな会話しかしない彼女の未知なる部分に触れ、頼もしさを感じつつも、じわじわと湧き上がってくる畏怖の念はしばらく拭えそうにない。 お婆さんの後ろには丸い玉がたくさん散らばっていた。見れば全て筋の入ったものばかりで、さすがは歴ウン十年の玉女だ。 拓人は玉女のすぐ横に立ち、見よう見まねでトライしてみた。しかし全然要領が掴めない。四苦八苦している雰囲気を察してか、玉女が優しくアドバイスをくれた。 「ええかい? 熊手で水の中の砂を掻く。掻いた場所に手を入れ、中をまさぐる。玉の感触があったら当たりじゃ。つまんで後ろに投げえ」 玉女の言う通りやってみると、すぐにつるんとした感触があった。手でつまみ、砂の中から取り出してみると直径五㎝ほどの丸い玉だ。しかし褐色の無地で、つまりメスだ。これは砂の中に戻せばいいのか? それとも一応取り除いた方がいいのか? 「玉女さん!! メスが獲れたんですけど!! この場合はどうしたらいいですか!!」 「殺すぞ!!!!」 急に吐かれた暴言に、拓人の体は硬直した。 メスをどうすればいいか聞くことはNGなのだろうか? それとも話しかけるタイミングが拙かったのだろうか? だけど自分は今日初めて天然のコンタクト漁をする初心者なのだ。何をしたら良くて、何をしたらいけないのか、皆目見当もつかない。 「気安く玉女と呼ぶんじゃねえ!」 そっちだった。
コメントはまだありません