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 僕に足を引っかけた男は頭髪が茶色がかっていた。いつも数人で集まり騒いでいる連中の一人だ。  花森は自席から彼らを睨みつけていた。教室がしんと静まり、それでもどこか浮ついた雰囲気があった。 「八百長」  連中の中でもとりわけ声の大きい中井がぼそっと呟いた。グループの全員がこそこそ笑った。 「言いたいことがあるなら面と向かって言えば」  大股に歩み寄ってくる花森に、連中は目に見えて萎縮していた。両者の真ん中に、僕はじっと立たされていた。  結局どちらも煮え切らないまま場の緊張は解けていった。僕もしれっと教室を出た。  嬉しい気持ちに惨めさが混じっていた。  花森は勇敢かもしれないし、きっと男らしいのだろう。彼の美点を煩わしく思うのは嫉妬に違いない。  ――勇ましさが彼を守る防壁になっている。咎める側も無傷ではいられず、やましさを感じる。  それがなおさら疎ましい。

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