空色プロレス
1-④
「俺はそいつに用があるんですよ」 指を差してくる男を、花森は腕組みして睨み返していた。 「俺は用なんかねえぞ」 水を打ったような静寂。担任の怒号がそれを破った。 「遊びはいい加減にしろ。ケジメをつけろ、お前らは。城島もさっさと帰れ」 城島と呼ばれた男は改めて花森を睨めつけたのち、さっと身を翻した。開いたままのドアを思い切り閉め、担任は「花森。後で、な」と事務的な調子で言った。おどけたような眼鏡の丸みが、今はかえって不気味に映った。 もう誰も笑っていなかった。棒立ちになっていた僕はおずおずと座り、音を立てて椅子を引いた。ようやく時間が動き出したみたいに自己紹介が再開された。
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