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「俺はそいつに用があるんですよ」  指を差してくる男を、花森は腕組みして睨み返していた。 「俺は用なんかねえぞ」  水を打ったような静寂。担任の怒号がそれを破った。 「遊びはいい加減にしろ。ケジメをつけろ、お前らは。城島もさっさと帰れ」  城島と呼ばれた男は改めて花森をめつけたのち、さっと身を翻した。開いたままのドアを思い切り閉め、担任は「花森。後で、な」と事務的な調子で言った。おどけたような眼鏡の丸みが、今はかえって不気味に映った。  もう誰も笑っていなかった。棒立ちになっていた僕はおずおずと座り、音を立てて椅子を引いた。ようやく時間が動き出したみたいに自己紹介が再開された。

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