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「どうか仕事を手伝わせてください、シキ様、と言うのならば助けてやらなくもないぞ」  これが人間である彼女らとの直接の出会いだった。  しかし、僕が彼女らを面白そうな子供たちだと思ってマークしていたのは、もう少し前のことだ。そう、あれは今からちょうど七日前のことになる。 🎸🎸🎸 「……このバカみたいな名前のチャンネル、何?」  アキは持ち前の無愛想を隠すことなく、眼前に表示された動画サイト「FabTube」のチャンネル名を罵る。 「ん? 何が表示されたの?」と言うのは、アキの姉であるナツだ。空色のショートパンツとカラフルな幾何学模様のような半袖シャツといういでたち。本人は気に入っているのだが、妹のナツからは、すこぶる不評だ。絶対にお下がりはいらないからと母親に事あるごとに伝えている。  そんなナツが妹のアキに近付く。黄色のスニーカーは毎日の酷使に耐えきれずに、ところどころに綻びが見てとれる。妹のアキに「日焼け止めくらい塗りなよ」と何度言われても拒むだけあり、全身がこんがりと日焼けしていた。  近寄ってきた姉に向け、妹のアキは無言で右の人差し指を動かす。その素振りはまるで空中にチェックマークを描くように見えた。姉のナツと同様の半袖Tシャツだが色は白の無地で、下はくるぶしまで隠れるスキニーデニムだ。ビルケンのサンダルは、ナツのスニーカーとは対照的に丁寧に使われていることがわかる。  そのアキの動作から一秒程度遅れて、ナツのXRグラスには「神様ニュース速報」という名のチャンネルが届いた。 「『神様ニュース速報』? センスのない名前だなぁ」とケタケタとナツが笑う。その隣では、「ミケにも送っといたから」とアキがボソリと呟く。  ミケと呼ばれた少年は「ミケじゃねぇって」と言いながらも、自らのXRグラスに表示されたお知らせを確認し、人差し指にはめた指輪を軽くタップする。すると、ナツと同様に動画サイトのサムネイルが表示された。  今、アキとナツ、そしてミケが見ているものは最も一般的に使われているインターネット上の動画サイト「FabTube」である。弱小国家以上に強力と言われるIT企業「Fab」が提供しているサービスの一つだ。「FabTube」上で見れない動画コンテンツは存在しないと言われるほどに多様な種類の動画が掲載されている。それらの動画コンテンツは、動画配信者——通称FabTuberと呼ばれている——が「FabTube」上に動画をアップロードすることで閲覧することが可能となる。FabTuberは自身のアップロードした動画をまとめておく「チャンネル」と呼ばれる動画リストのオーナーである。人気の動画コンテンツは世界中からのアクセスが殺到し、人気チャンネルを運営するFabTuberともなると収益は数十億円、数百億円にのぼるとも言われている。なお、動画の中には違法と思しき動画などもアップロードされており、運営会社は毎時毎秒の如くその対応に追われていると聞く。 「でもさ、『神様ニュース速報』が神社で観れるのは、別に不思議じゃなくね?」  素直さと純粋さというオブラートを包んで本音を呑み込むのであれば「いい人」とアキに酷評される少年が、持ち前の純真さを前面に出すものだから、アキは盛大に溜め息を吐いた。 「……ミケは、そのままでいなよ」 「ミケじゃねぇ! 俺の名前はハルタだ! つーか、お前、年下のくせにタメ口を使うなって前から言ってんだろ」  ミケと呼ばれた男子は、小学五年生の平均身長から15cm程背が高く、ガタイも良い。半袖から覗く腕は黒々と日焼けをしており、スポーツ少年という風をしている。だが、見た目ほど活発ではなく、決して運動神経が良いとは言い難い。本人もそれを気にしてか、少しだけ気の弱いところがあるのが、この少年のもったいないところではある。  そんなことだから、年下の女子にもぞんざいに扱われてしまうのだ。 「はいはい。ミケは少し黙っててくださいあそばせ。あと、ボクのことを『お前』って二度と言わないで」  アキの口調に気圧され、「ミケじゃねぇ……」とハルタが弱々しく応える。  だが、アキもナツもミケのことなど眼中にはまるでない。全くもって取りつく島もない。

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