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「とりあえず、連絡して——」とミケがXRグラスでチャットツールを開こうとすると、既にアキからの通知があることに気付いた。  ナツも同様にアキからの連絡を確認する。 『FabMAPを開いてみて』  簡素な言葉がアキらしい。  「FabMap」とはARマップサービスである。「FabTube」を提供するIT企業「Fab」のサービスの一つだ。そのARマップサービスをXRグラスを起動しながら見れば、住所や公共施設、お店の名前はもちろん、他人がそのサービス上の土地に付けた名称——通称で「ピン留めポイント」と言う——なども見ることができる優れものであり、マップサービスとしては圧倒的に市場シェアを占めている。 「どれどれ」とナツが開くや否や「え……!?」と驚きの声を上げる。  ミケも「これって……?」と呟く。  「FabMAP」を開くと、そこには「KAMI ROCK FESTIVAL 入場ゲート」の文字がピン留めされている。  ピン留めは基本的には全員が表示されるものだが、自身の友人だけに見せる設定や特別なデータ・パスワードを持つ者のみだけが閲覧できるようにする設定を付けることもできる。  そして、この「KAMI ROCK FESTIVAL 入場ゲート」は「KAMI ROCK FESTIVAL のチケット」を持つ者のみに表示されるようになっていた。  表示場所は、まさに二人がいるこの社を指している。だが、この社に入ったところでロックフェスが開催できるほどの広さがあるとは到底思えない。こんなところに何百万人も集まれば、社はあっという間に崩壊するだろう。何よりも、何百万という神様が集うというのであれば、そこかしこに神様がいなければならないはずだが、この寂れた神社には神様どころかナツとアキ以外にひとっこ一人いないのだ。 「うーん、どういうことだ?」  ナツが首を傾げていると、「おっおっおっー!?」とミケが驚きの声を上げる。 「ナツ! チケットが——! チケットが——!!」  繰り返すミケの声にナツもチケットを取り出して眺める。  KAMI ROCK FESTIVAL のチケットがボウっと柔らかな黄金色をたたえて光っていた。 「え、光ってる……?」  ナツが疑問を口にすると同時に社の扉がガチャリと開き、中から突風が吹き荒れた。外へ押し流すのではなく、内へと引き込むような風に、ナツもミケもその場に留まることができず、突風へと巻き込まれていく。二人はその強風のせいで目を開けることができずにいた。周りで何が起こっているのかはもはやわからず、ただゴーゴーヒューゴーと鳴る風の音が耳へと入ってくる。さらには、あまりの強風に口を開くこともできず、仮に口を開いたとしても喉の水分が吸い取られ、カラカラとした状態で声など出せることもなかっただろうが。 「あぁ、ナッちゃんにミケ。遅かったね」  目の前には姿をくらましていたアキがいた。  アキに出会う数秒前、ナツとミケは確かに突風狂乱の中にいた。強風に呑み込まれたかと思うと、突如として耳に届いていた風の音が消え、今度はガヤガヤとした雑踏の音が頭の奥に響く。音だけではなく、肌を包んでいた風の冷たさと痛みもない。少なくとも強風は収まったようだとわかり、ナツが恐る恐る目を開いたところ、こうしてアキに出会ったというわけだ。  やっ、とアキが手を上げる。 「アキ! どこにいたの!?」とナツが駆け寄る。さすがに妹が消えて焦っていたのかもしれない。  だか、姉とは違いアキは落ち着いて答える。 「どこも何も、ここに」 「ここってどこなの?」  そう言うミケに対して、アキは振り向いて正面上の方を指差した。  そこにはチケットに記載された名称と同じ文字が記入された看板がかかっている。少しだけカラフルな看板の下には、それを背景に写真を撮っている人たちも見える。  少し遠いこともあってか、ナツが少しだけ目を細めて看板を読む。 「KAMI ROCK FESTIVAL 100,000,000……?」 「ふふふ。ようこそ! KAMI ROCKへ!」  なぜかアキがホスト側かのように手を広げる。 「本当に、あったんだ……」 「ここが、フェスの会場……」  そこは先程の天上神社とは全く違う広大な土地だった。  四方を小高い山に囲まれ、見渡す限りが緑だ。神社は鬱蒼とした木々によってどこにいても影っていたが、天上神社とは打って変わって、ジリジリと照りつくような太陽の陽射しが容赦無く三人に降り注いでいる。  ナツとミケが少しだけ放心状態で立ちすくむ横で、アキが「ほら、早く行こうよ」と二人の手を引っ張る。「そういえばさ、ここ、『Fab Map』で現在地を示してくれないんだよね。不便だよねぇ」とアキは随分と呑気なことも言っている。  入場を待ち侘びる神々で、既に長蛇の列となっていた。三人はその列の最後尾につける。

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