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「神様って言うけど、意外と私たちと同じなのね」  ナツは周りにいる神様たちの様子を眺める。  神様も神楽屋姉妹の両親や祖父母と同じような背格好が大半であり、中には自分達と同じか、もっと歳下にも見える神様もいた。 「神様って言うから、もっと宇宙人みたいなのとか動物みたいなのとか、トトロみたいなのばっかりがいるのかと思ってたのに」  ただ、動物やトトロや宇宙人みたいな神様もおり、決して全員が全員、人間のような姿形をしているわけではなさそうだ。 「でもさ、実際にお面を取ったらどうかなんてわからないよ、ナッちゃん」 「それもそうね」  この「KAMI ROCK FESTIVAL」には一つのしきたりがあると、先日観た「神様ニュース速報」でも言っていた。それは「目を隠すこと」だった。理由までは説明がなかったので、なぜそうしているのかはナツたちにはわからないが、それが一回目からのならわしだということだ。だから、周りの誰もがお面を被ったり、ナツたちのXRグラスのようなサングラスをかけている。中には布を目に巻いている者もいるが、前が見えているのかは定かではない。 「でも、せっかくなら神様の顔を観てみたかったなぁ」  残念がるナツを尻目に、「だからボクたちがここにいても不自然じゃないんだよ」とアキは冷静な分析をする。 「それもそうね」  アキは並ぶのに飽きてきたのか、時計を見る。  時刻は9時55分。入場まであと5分のところだった。  入口付近には、ライブグッズの販売所や数点の屋台が並んでいる。  そのグッズを見てミケは目をまん丸くし、驚きの声を上げた。 「ジョン、レノン……ジャニス、ジョプリン……? フレディ、マーキュリー!? ジミィーヘンドリックスゥゥゥ!!? カートコバァァァァァン!!!?!!?!!!!?」 「な、なに? 知り合い?」 「ナツ、これは凄いことなんですよ……」なぜか丁寧語で答えるミケ。「ジョン・レノン、ジャニス・ジョプリン、フレディ・マーキュリー、ジミ・ヘンドリックス、カート・コバーンといえばですよ、伝説のミュージシャンたちです。ただ、みんな、早くして死んでしまったんです……まさか、そのレジェンドたちを観れるなんて……」  そういえば、コイツは英語なんてわからないくせに洋楽ロックは好きだったわね、とナツが思い出す。 「そのわりにフェスには乗り気じゃなかったじゃない」 「まさか、偉人たちを観れるなんて思ってもみないじゃんか」  それもそうかとナツが納得していると、今度はアキが絶叫を始めた。 「世阿弥ーーーーー!!!!!?!!?!! シェイクスピアァァァァァァァァァ!!!!!!!!」  フラフラとして意識を失いかける妹の肩をガシッと抱きしめる。さすがのナツも世阿弥とシェイクスピアは名前だけは聞いたことがある。社会科の歴史の授業で習った記憶がうっすらとだがある。  そういえば、アキは歴史とお芝居が好きなのよね。  それにしても、ロックだけではなく劇などもあるとは。神様は随分と欲張りらしい。 「つまり、死んだ人が神様の世界で観れるってことなのかしら」  さほど興味のないナツが興味がなさそうに告げた。 「ナッチャン! もっと真剣に向き合って!」 「ナツ、この凄さを理解しろ!」  珍しくアキとミケがタッグを組んで、ナツに抗議する。 「ハイ……」  ナツが二人に言い負かされていたちょうどその時、会場時間となった。 『では、今から会場します。皆様、列を乱さずにごゆっくりお進みください』  会場スタッフと思しき女性がスピーカーから声を出す。  並んでいた列が動き出し、三人は一歩一歩前へと進んでいく。  入場ゲートをくぐると、三人はまず透明なゴミ袋をもらった。きちんと分別をしつつ、リサイクルできるものはこの袋の中へ入れるようにとのことだった。神様たちもゴミ問題は大変らしい。人間の歴史よりも遥かに長い悠久の時間を過ごしてきているのだから、無理もないのかもしれない。  ゴミ袋を受け取ると、そのお礼も兼ねてなのか、今回のロックフェスの会場案内とタイムテーブルが記載されている折りたたみ式の紙面ももらえた。 「へー、このフェスって今日だけじゃなくて三日間もあるのね」  ナツは会場へと向かうタイムテーブルをサラッと流し、会場案内を眺め始めた。歩きながら観るものだから周りの人に少し邪険に扱われているのだが、ナツは気にもとめない。代わりにミケやアキがペコペコとお辞儀をして歩いている。  会場案内を見る限り、入り口付近の広場とは比べ物にならないくらいの広さがあることがわかった。  メイン会場は小さいものも含めると10個に分かれており、音楽以外にもトークイベントや演劇、映画、カジノなどの催し物もある。子供向けの遊園地や公園なども設置されているようだ。「へー、神様にも子供はいるんだね」とナツが言う。  だが、タイムテーブルを食い入るように見つめていたミケはそれどころではなかった。 「ま、ま、ま、ま、ま、ま、ま——」 「ママに会いたくなっちゃったんでちゅかー?」  ナツが冷やかすと「ちがわい!」とミケが強く否定する。 「マイケル・ジャクソンが! 今日のヘッドライナーで……!!」 「ふーん」 「ふーん、って!」 「だって、お股を抑えて『ポォー!』って叫ぶだけの人でしょ? 何か凄いわけ?」 「ナツ、お前……!!」ミケは口を押さえて絶句する。 「それにさ、このマイケルさん、今日の最後なんでしょ? じゃあ、見れるわけないじゃん」 「そうだよ、ミケ。ナッちゃんもボクも今日は17時には天上神社に戻らないと、18時からの物忌奈命神社の踊りに間に合わなくなっちゃうよ」  アキはしれっと両親との約束の時間を反故にしていた。だが、二人で舞を踊るという使命を果たす気持ちはあるようだ。 「残念だったな、ミケ」 「ぐぅ……」  ぐうの音を鳴らすミケは既に後ろ髪引かれる思いだ。まだ今日のライブは一つも始まってすらいないというのに。そこで、ミケはあることを思い付いた。彼にとっては、人生史上最大の閃きと言って良いだろう。 「俺だけ、マイケル・ジャクソンを観て帰——」  だが、その閃きはナツの鋭く突き刺すような眼差しに串刺しにされ、さらには「は? ボクたちの踊りを観たくないの?」というアキの言葉によって粉砕される。 「ぐぅ……」

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