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🎸🎸🎸  2027年7月31日、土曜日。時刻は9時35分を数十秒回ったところ。  ナツ、アキ、ミケの三人は、参拝客に忘れ去られた天上神社にいた。  親には物忌奈命神社のお祭りまでには戻ると伝えてある。神楽屋姉妹は踊り手でもあるので、多少の難色は示されたものの、言い出したら聞かない二人であり、なんなら機嫌を損ねてしまえば「踊らない」とすら言い兼ねない。そんな強情な姉妹であるので、家族も観念して「16時までには物忌奈命神社に来るように」と期限付きで渋々に了承した。 「さぁ、いよいよね!」ナツが興奮して鼻を大きくしている。 「いよいよだね、ナッちゃん!」アキがワクワクを隠しきれずにピョンピョンと跳ねる。 「いよいよ、だなぁ……」ミケだけが今の今まで行くのをやめないかと反対していた。  ミケは一週間前に二人に聞いたことがある。 「どうせ嘘に決まってるって。あの番組も作り物だよ、きっと。行くだけ無駄じゃない?」  ナツがムッとして答える。「どうして嘘って決めつけるのよ」  アキが笑って答える。「嘘でも良くない? 楽しければ」  二人が息を揃えて答える。「そうだ、そうだ。行ってみなけりゃわからないじゃない」  ミケがなんと言おうとも神楽屋姉妹の決意は固く、この一週間はどうしたって「KAMI ROCK FESTIVAL 100,000,000」に行くことは変わりない事実であった。  ナツとアキは毎日がフェスティバル気分で過ごした。  一方のミケは毎日を暗澹たる気持ちで過ごした。何かが起きたらどうしよう、何も起きなかったらどうしようと、どちらに転んでも心配だった。  三人が用意したお気に入りのリュックには、水筒にお財布、XRグラスの充電器、雨用のポンチョ、念の為のウインドブレーカーやパーカー、非常食としてのお菓子が入っている。お菓子は一人300円までと決めたが、大幅にはみ出て800円になった。  服装は思い思いの格好をしている。ナツはいつも通り空色のショートパンツとカラフルな幾何学模様のような半袖シャツにサンダル。帽子もパンツと同じく空色のキャップを被っていた。アキは山登り用のハーフパンツの下にサポートタイツを履き、上はお気に入りのキャラクターが小さくプリントされた白色のTシャツに足元はコンバースのハイカットスニーカー。帽子はツバ広の薄手のサファリハットを。ミケはサッカーの練習で使うスポーツTシャツに、下はデニム生地の短パンを履き、ランニング用の軽いシューズを履いている。帽子はしていないが、バンダナを持ってきていた。もちろん三人ともXRグラスをかけている。  だが、三人は半信半疑の部分もある。なぜなら、先週以来「神様ニュース速報」のチャンネルにアクセスできないのだ。アクセスできないどころか、いくら探しても見つかりすらしない。ここ天上神社に来ても観ることができなかった。 「だからこそ、逆に気になるんじゃない」というのは、ナツの言である。  チケットに記載された入場時間まで残り25分程度。  その時になって、ようやく三人はあることに気付いた。 「これさ、入口なんてどこにもなくない?」  発端はミケの一言だった。 「……ミケ、良いところに気付いたね」 「ナッちゃんもミケも気付いてないと思ってた」  三人が「うーん」と頭を抱える。  やっぱり嘘だったんだよ、とチケットを見つめながらミケが帰ろうよと促す。  アキは右手の人差し指の第二関節を唇に当てている。考えるごとをする時の癖だ。 「まだわからない! 近くを歩いてみるのだ!」  ナツがそう言うと、私はこっち、ミケはあっち、アキは……と妹の様子をチラと見て、考えてくれてていいからここにいて、と指示を出した後にすぐに辺りの散策を開始する。  ミケもナツに従い、ナツとは反対の方向へと歩いていく。  今日はいつもに増して鳥たちや動物たちが賑やかだなとミケは思う。だが、それ以外に変わったところもなさそうだ。  さして大きな神社ではないので、外周に沿ってぐるりと歩いていると、ちょうど半周くらいのところでナツと出くわす。  何か見つけた、と聞いてもナツは首を左右に振るだけだった。せっかくなので、それぞれ反対側も歩いて、アキの待つ滅びた社で落ち合うことを決めた。 「で、また会ったわけだけど——」  ナツが社の前で待つミケに尋ねると、ミケは両掌を空へと向ける。お手上げということだろう。 「それはそうとして、アキはどこ行った……?」  社の前にいるはずのアキがいない。まったく勝手に動いちゃって、とナツは妹のワガママに付き合う姉のような声を出す。だが、普段から姉のワガママに付き合っているのは、妹であるアキであることは言うまでもない。

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