半端者のダンス
第24話 目、目、目、目

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 気を持ち直して。  そう。自分の気持ちを保つ為、緊張の糸を切らせない為、僕はそれからも書き続けた。そんな中、次々に自分の作品の選考結果が発表されていった。  CTHP名義で送った作品3点、全て1次選考通過、2次選考落選。  個人名義で送った作品3点、全て1次選考落選。  これからわかったことは、瓦来かわらいさんの審美眼が素晴らしいという事。更に、僕の僕自身の作品に対する審美眼は節穴だったという事。  結果を残せる人間からしたら、この僕の努力は努力と呼ぶに値しないものかも知れない。けれども僕は僕が努力したと思える域まで努力をした。それでも届かなかった。現実の厳しさを知ると同時に、CTHPへの適性はあると感じざるを得なかった。  本当にこの会社の社員は愚直なまでに嘘を吐かないようだ。  僕が入社してからちょうど半年と言う時、CTHPの全員を集めての祝いの席があった。なんでもこの1年最も活躍をした社員を発表する会なのだそうだ。その社員にはボーナスが送られるそうだ。何とも景気のいい話。だが、それも僕にはどうでもいい事だった。それなのに、どうでもいいという権利すら僕には与えられなかった。なぜなら、 「今年の最功労者は、多楽多守一たらくたしゅいちさんです」  僕が選ばれてしまったのだ。  この事を、会が始まる1日前に瓦来かわらいさんから聞いた。 「多楽多さんには社長代神先たいかんざきより功労賞が送られます」  しかしながら僕が欲しかったのはこの会社の功労賞などではない。この仕事に対して熱意を持って働いている方々には大変申し訳のない話だが、こんなものより僕が欲しかったのは、個人の作品の2次選考通過だ。だが、結局全ては1次選考すら通らない有様。 「多楽多さんは壇上におあがりください」  皆から惜しみのない拍手が送られる。僕の人生においてかつてこれほどの拍手喝采を受けたことはない。  僕は歩きながら考える。  この賞を突き返す事は出来ないだろうか。  そして壇上から声高に叫ぶんだ。  皆目を覚ませ、と。  確かにこれは誰かの為になる仕事かもしれない。才能の無い人の無駄な足掻き止めさせ、本領を発揮できる場所へ連れて行くシステムの一端を担っているのかもしれない。いやそうだ。きっとこの会社はこの国の為になっている。実際ニートも減っているそうだ。くじ引きのような運要素を含まない選考により、挑戦者たちは真っ当な評価を受けて輝かしい未来を手に入れている。それは事実だ。  けれども、僕らは誰かのボーダーラインになる為に生きて来たんじゃあない。自分は自分の為に生きる為に生まれて来たんじゃあないのか。  チャンスがあれば、才能があれば、僕だって私だってと思いながらも、諦めきれない夢を胸に秘めて、鬱々とした人生の中に一条の光を見て、せめてあそこに向かって歩いて行こうと思ったんじゃあないのか。  行く先に辿り着く前に朽ち果てようとも、構うことなく、雨の日も風の日もただ歩き続けようとしていたんじゃあないのか。  夢叶わなくともそこへ向かう為に足掻き続ける事がもはや矜持で、それを全うできれば、それは人として生を送ったという事になるんじゃあないのか。挑戦者の為のボーダーラインになるんじゃあない。ボーダーラインがなくとも挑み続ける。そんな人になろうともがき苦しんできたんじゃあないのか。  冷静に考え続ける脳と、衝動に突き動かされそうになる咽喉。  よし。言おう。  壇上に立ち、社長から目を逸らし、ここにいる全員を見渡した。  そこには尊敬の眼差しで拍手を送り続ける社員がいた。  目、目、目、目。  パチパチパチパチ!  そこには子頼こよりさんも瓦来さんも火倉ひぐら鎌富かまとみさんも部長も居た。  全員何の淀みもない、澄んだ瞳をしていた。  想像とは違う。僕は勝手に思い込んでいた。ここにいる人達は皆逃げてきたんだと。世界の不寛容という大災害から逃れ逃れて、爆心地から遠く離れた安住の地を求めてやって来たのだと思っていた。だからきっと皆疲れ切っていて、目は死んでいる、もしくは洗脳されたように光を反射しない淀んだ瞳をしているのだと。  しかし真逆。恐らく僕の方が死んだ魚のような眼をしている。  拍手の雑音が途絶し、耳鳴りへと変わる。  キーンと言う音で世界は静寂に包まれる。  僕は結局口をパクパクさせるだけで、何も言えはしなかった。 「どうしたのかね?」  社長が僕を心配して顔を覗き込む。  僕は答える。  僕は苦労しています。と言う笑顔で。 「いえ、何でもありません。緊張してしまって」 「無理もない」  はははっと笑う社長。  それから社長から言祝ことほぎを頂き、賞状と札束の詰まった封筒を渡された。  何を言われたのか、封筒にどれだけお金が入っていたのか覚えていない。  ただ気付けば僕は自宅の寝室に寝転がり、賞状をぼっと見つめていた。いつの間にかシャワーも浴びていたらしい事に気付き、僕はそのまま眠りについた。時計はまだ17時だった。

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