僕は賞状を貰った瞬間から、代わりに夢をどこかに置き去りにしたらしい。あるいは、社長が笑いながら持ち去ったのかもしれない。 それから僕はCTHPの為の作品を書くことだけに没頭した。 1次選考だけを通過する作品という事は、絶対に2次選考で落ちるという事だ。 思いを込めて書き上げた作品が落選すると、自分の事しか考えられなくなるほど落ち込むのに、CTHPの為に書いた作品が2次選考で落とされても、全く心が痛まなかった。まるで麻酔を打っているようだった。これを打っていれば、自分の腹にメスを入れられても全く痛くない。その上、これはどうやら逃げ口実ではなく、国の為になるらしいのだから、止められなかった。煙草は増税の時にスパッと止められたのに。 だがある日、ネタに行き詰まりを感じ、しばらく書けなくなり、麻酔が切れた。 その際に思った。この一瞬の隙に、僕にはやらなければいけないことがある。 僕の心を砕く作品を読まなければ。 僕は瓦来さんに頼み込んで、子頼さんの大賞を受賞するはずだった作品を見せてもらった。 タイトルは“葬儀屋リヒト”。 この世の生きていないあらゆる物体を灰に変える特異体質の青年リヒトがこの物語の主人公だ。彼は自分の特異体質に苦悩しながらも生き抜き、最後は愛によって救われるというものであった。僕はこの作品を読んで、涙が止まらなかった。こんな作品を読んだことがない。プロの作家の作品であっても、これほどまでに感涙したことはない。 そんな名作を、彼女は封印したのだ。 この仕事続ける為に。 ひいてはこの僕との関係を終わらせない為に。 間違いなく僕は砕かれた。 砕かれて、思った。 僕のせいにしてこの名作を世に出さないなんて許さないと。 そう。僕は心の狭い男なのだ。 心の狭い男なりの信念は貫かせ貰う。 社員全員に対して目を覚ませという事は無理だった。正直あの時は足が竦んだのだと思う。けれども、子頼さんの目だけは覚まさせる。僕にはその義務がある。 ボーダーラインとしての。
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