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 翌朝も僕と大輔兄ちゃんは、箱ワナをしかけた小川のほとりを目指して山を登っていた。 「今日こそは、かかっていてくれないかなぁ……」 「うん……」  大輔兄ちゃんがワクワクした様子で口にする言葉に、僕は複雑な気分になった。元はと言えば、僕が言い出したこと……だけれども、僕はアライグマのワナを仕掛けることなんて、やめたくなっていた。 「ねぇ、大輔兄ちゃん。今日、アライグマがかかってなかったらさぁ……」  もう、やめにしよう。僕がそう言おうとした時だった。 「あ、健吾。見てみろよ!」 「えっ?」  大輔兄ちゃんの指さす方を見た。  すると…… 「アライグマ……」  そう。箱ワナの中では、小さなアライグマが一匹、落ち着かずにウロウロと歩き回っていた。  そして、その周りには大きなアライグマ一匹と小さなアライグマ二匹がおり……ぼくたちの方を見てそのすがたを確認するとすぐに、山の木々の中へ姿を消したのだ。 「おぉぅ、やったな、健吾。ついにかかったぜ!」 「うん……」  その子供アライグマはぼくたちを見たとたんに、ワナの中で後ずさるようにすみっこへ行き、毛を逆立てた。ぼくはそんな様子を見て思わず言った。 「ねぇ、大輔兄ちゃん。にがしてやろうよ」 「え?」 「だって、こわがってるし……早く、お母さんアライグマのところに返してやろう」 「あ、ちょっと……」  ぼくは箱ワナへ走って、そのとびらを開けた。それでもまだ、子供アライグマはすみっこの方でちぢこまっていて……少しふるえているように見えた。 「ほら……怖がってないで、出ておいで」  ぼくはすみっこで身動き一つしないアライグマに手を伸ばした。その瞬間! 「ダメだ、健吾! 危ない!」  あわててかけつける大輔兄ちゃんのその声が終わらないくらいの瞬間だった。 「いたい!」  ぼくの右手にするどいいたみが走り、すぐに手を引っこめた。その反動で、箱ワナのとびらは中に子供アライグマを残したままガシャンと閉まった。  ぼくの右手には……アライグマにかまれたきずがくっきりときざまれていて、その歯がたからはみるみるうちに血がふきだした。箱ワナの中のアライグマはまだ口をあけて歯をむき出し、毛を逆立てて「ギュゥーッ」と声を出していた。 「いけない……健吾。病院に行くぞ!」 「でも、アライグマが……」 「いいから。早く行かないと、大変なことになるぞ!」

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