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 ぼくは布団の部屋にもどって、ぼんやりとかべを見た。  大輔兄ちゃんはああ言ってたけど……やっぱり、あのアライグマがどうなったのか、気になる気持ちがぼくの中でどんどん大きくなっていた。だって、おじいちゃんの様子も大輔兄ちゃんの様子も、どこかおかしかったから。まるで、ぼくに何か、おそろしいことをかくしているみたいな……。  ぼんやりと何も考えられないぼくの耳に、ガラッと部屋のふすまを開ける音が入ってきた。 「健吾……まだ、起きてたのか」  ふすまの方を見るとお父さんが、歯に何かふさがっているかのような複雑な笑顔を浮かべて立っていた。そして、ぼくのとなりに来て、ふとんの上で三角ずわりをして……ゆっくりとお話を始めた。 「なぁ、健吾。おじいちゃんは本当のことは言わないつもりでいるし……多分、大輔くんもそのつもりでいるだろうけどな」  お父さんはそっとぼくに顔を向けた。 「ぼくはお前に、本当のことを話すべきだと思っている。いや……お前は本当のことを知るべきだし、知ってどうにかなるほど弱い人間じゃないからな」 「お父さん。本当のことって……」  ぼくの右手のきずがずきずきと、脈をうつかのようにいたみだした。そのきずを押さえて、ぼくはお父さんに顔を向けた。  お父さんはしずかに目を閉じた。 「健吾。あのアライグマはな、死ぬ。役所に連れて行かれて……殺されるんだ」  その言葉を聞いた瞬間。ぼくの胸の中で心臓がドックン、ドックンとあばれるとともに、右手のきずはずっきんずっきんと、こらえられないほどにいたみを増した。 「ど……どうして? だって、柿を食べたり畑を荒らしたりするなら、どこか遠くへ……そうだ、ふるさとのアメリカに連れて行ったらいいだけじゃん」  すると、お父さんは首を横にふった。 「いいや。法律で、殺すように決まっているんだ」 「何で……」  ぼくには分からなかった。アライグマはただ、おなかがすいて食べ物をとっていただけ。ぼくをかんだのだって……あの子供アライグマが怖がりだっただけで、ぼくのきずなんて、そんなに大したこともない。なのに……どうして殺されなくちゃいけないの?  ぼくは、顔から血の気が引いていくのを感じた。お父さんは、そんなぼくを見て、またゆっくりと、さとすように言った。 「いいか、健吾。アライグマを……いや、野生でくらしている動物なら何でもだな。動物をつかまえるってことは、そういうことなんだ。つかまえたら、殺さなくてはいけない。絶対に、遊びや面白半分にやってはいけないことなんだ」  お父さんのその言葉がぼくの心のおくにまでグッサリとつきささって。アライグマにかまれた右手のきずなんかよりもずっと、重くて深くて……そして、いたかった。

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