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 お昼も過ぎてお日様が少しずつ西の空に近づいていた。ぼくは家の周りの田んぼにイナゴをとりに出かけた。  おじいちゃんの家の周り、イナゴが多いんだ。それは、ここの辺りの田んぼは農薬を使っていないからで、だからイナゴも丸々と太っているし、おじいちゃんの家で食べる白いごはんもとってもおいしい。  虫とりあみをイナゴに向けて構えていた、その時だった。 「あれ、健吾(けんご)じゃん」  聞き覚えのある声にふり向いた。 「あ、大輔(だいすけ)兄ちゃん。久しぶり! 元気してた?」 「おぅ、元気、元気。お前、大きくなったなぁ」  四歳上のこの大輔兄ちゃんは、小さい頃からずっと、ぼくがおじいちゃんの家に来ると遊んでくれた。おじいちゃんの左どなりの家の子供で、ずっと自然の豊かなここに住んでいるんだ。 「やっぱり、ここっていいよね。虫もいっぱいいるし、食べ物もおいしいし」 「そうだよ。今年の夏なんて、こぉんなに大きいカブトムシをごろごろつかまえたんだぜ」 「わぁ、いいなぁ……」  その時だった。「つかまえる」という言葉から、ぼくはアライグマのワナを連想したんだ。 「そう言えば、大輔兄ちゃん……」  聞いてはいけないことのような気がしながらも、聞きたいという気持ちをおさえることができなかった。 「アライグマって、つかまえたことある?」  すると、大輔兄ちゃんは少し目を丸くしてぼくを見たが、すぐにくちびるがニッと上に上がった。 「ああ、あるぜ」 「ほんと!?」  ぼくは心おどらせて、その言葉にとびついた。 「どうやってつかまえたの?」 ぼくが興味しんしんに聞くと、大輔兄ちゃんはいたずらっぽく笑った。 「ワナだよ。箱ワナってやつ。見せてやるから、付いて来いよ」 「うん!」 おじいちゃんは怒るかな……? ちょっとそう思ったけど、ぼくはそのワナがどんなものなのか、どうやってアライグマをつかまえるのかが気になってしかたがなかった。だから、ぼくは大輔兄ちゃんの家に上がった。 「すごい……これが、箱ワナ?」  それはがんじょうな鉄の金あみでできていて、ドアみたいなのが上に開いていた。 「そうさ。アライグマがこのエサ台をふむと、ドアがしまるんだぜ」  それは、大輔兄ちゃんのお父さんの部屋にあった。農業をやっているお父さんはこのワナで、畑を荒らすアライグマを何匹もつかまえたのだそうだ。  そんなことを聞いていると、ぼくもこのワナでアライグマをつかまえたくなった。そんなぼくの様子に気付いたのか、大輔兄ちゃんはまた、いたずらっぽい笑顔になった。 「この箱ワナ、しかけてみるか?」 「え、そんなことやっていいの?」  ぼくは心がおどった。 「箱ワナは役所からの借り物みたいだけどな。まぁ、ちょっとくらい使ってみてもバレないだろ」 「うん……」 バレたらきっと、怒られる。だけれどもぼくは、ワナをしかけてみたいという気持ちをおさえることができなかった。  だって、都会のマンションに住んでいるぼくは、犬や猫にさえあまりさわったことがなくて。動物を飼いたいって、ずっとあこがれていた。だから、あんなにかわいいアライグマをつかまえて近くで見れるだなんて、すっごくワクワクした。 「まぁ、ぼくがここにいる間だけだからね」  シルバーウィークは五日間。あっという間だし、どうせ、つかまらないだろう。  その時のぼくは、そんな軽い考えだった。 「よし。そうと決まったら明日の朝、山にしかけに行こう!」 「うん!」  後ろめたさは感じながらも、ぼくは次の日が楽しみでしかたなかった。

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