翌朝。大輔兄ちゃんのお父さんとお母さんが畑仕事をしているすきを見て、ぼくたちはこっそりと箱ワナを持ち出した。箱ワナは折りたたむことができたので、思っていたより持ちやすかった。 ぼくたちは山の中の小川の近くで箱ワナを組み立てた。大輔兄ちゃんによると、小川の近くでよくとれるらしい。さすがはアライグマ、小川でよく食べ物を洗うんだな……なんて思った。 「よし、大体組み立てた。あとは、エサ台に乗っけるエサだな」 大輔兄ちゃんは、ふくろを開けた。ふくろにはキャラメルコーンとびん詰めのハチミツが入っていた。大輔兄ちゃんはお皿に入れたキャラメルコーンにハチミツをかけて、エサ台に乗せた。 「アライグマって、そんなのを食べるの?」 「ああ。この辺りのアライグマは特に、あまい物が大好きみたいだぜ」 「ふーん……」 あまいものが大好きって、ぼくと同じだな。そんなことを思った。 「よし、これで完了。あとは明日、見に来ようぜ」 「うん!」 生まれて初めてしかけた動物用のワナ。ぼくはとってもワクワクしていた。 「何じゃ、健吾。何か、いいことでもあったのか?」 ワクワクしすぎておじいちゃんの家でもニヤニヤしてしまっていたみたいで、思わずぎくりとした。 「い……いや、別に」 その時、庭でさびしくなってしまった枝を静かにゆらしている柿の木に気付いた。 「あの柿の木……やっぱり、実をほとんど食べられちゃったんだね」 「そうじゃな……」 おじいちゃんも、うでを組んで柿の木を見つめた。 「アライグマって、あんなにかわいい顔をして、悪者なんだね」 悪者だから、ちょっとつかまえてこらしめてやるくらい……いいよね。 そんなことを考えて言った。でも…… 「いいや、それは違うぞ、健吾」 おじいちゃんは、うでを組んだまま頭を横にふった。 「えっ?」 「本当に悪いのは、アライグマじゃない。アライグマを日本に連れてきた、人間なんじゃ」 その言葉が、ぼくの胸の奥をトクンと鳴らした。 「アライグマの見た目がかわいいからとか、変わったものが飼いたいとかで、人間は興味本位でペットにした。それで結局、飼うことができずに放した。アライグマたちは、そんなことをした人間にしかえしをしとるんかも知れんな」 「うん……」 ぼくはうつむいた。 アライグマを興味本位でペットにしてすてることと、興味本位でつかまえること。それはどっちが悪いんだろう。もしかしてぼくは、おじいちゃんの言う悪い人間と同じようなものなのかも知れない。 「アライグマたちもただむやみに柿を食ったり畑を荒らしとるんじゃない。生きていくためにしかたなくやっとるんじゃ。じゃからな、いくら柿の実を食われたからといって、いくら畑を荒らされたからといって、ワシも本当はつかまえたくなんかないんじゃ」 おじいちゃんのその言葉が、ぼくの心にしみていたくなった。
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