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 ぼくのおじいちゃんの家には、柿の木がある。毎年毎年、秋になったらオレンジ色の柿の実が太陽の光をあびてキラキラとかがやいている。  ぼくは、小さいころからその柿が大好きだった。一口かじると、太陽の光をあびて育った実の、みずみずしくてあまいしるが口いっぱいに広がる。 小学四年生だったその年も、シルバーウィークを利用しておじいちゃんの家へおとまりで遊びに行くことになり、一年ぶりに柿を味わえることを楽しみにしていた。 ぼくはお父さんの車に乗って、まどの外に広がる風景を見ていた。 あざやかな黄金色にかがやいている田んぼに、黄色くかがやくすすき。田舎の風景はすっかり夏の色が抜けて秋の色への衣がえをすませていた。  まどから見えるそんな風景にうっとりと見とれていた時だった。 「あぶない!」  お父さんが急にブレーキをふんだ。ぼくは、かたからおなかにかけてななめにシートベルトが食いこむくらいに前のめりになった。 「え、何?」 「ちょっと、あなた。どうしたの?」  後ろの座席のお母さんもびっくりしていた。 「前……何の親子だ?」 「前?」  お父さんの声でフロントガラスの向こうを見た。 「あれは……」  灰色の毛に、目のまわりの黒いまだらもよう。しっぽに黒い横じまのある、ネコよりは大きくて野犬よりは小さい動物が三匹の子供をつれていたのだ。  そして、四匹ともこちらを見ていて……お母さんかと思われる一番大きい子と、ぼくは目が合った。 「タヌキ?」  お父さんがそうつぶやくやいなや、その四匹の動物は道路わきの林へかけて行った。 「こんにちは!」 「おおぅ、よう来たな」  家に着くと、おじいちゃんはにこやかにむかえ入れてくれた。 「お義父さん、お久しぶりです」  お母さんはぺこりと頭を下げた。  おじいちゃんはお父さんのお父さんで、お母さんにとってはぎりのお父さんということになる。 「そんなにかたくならんと。ほれ、お座りなされ」  おじいちゃんはにっこりと笑って、いつものたたみの部屋にぼくたちを入れてくれた。 「ほれ、おあがり」  おばあちゃんが、おはぎを出してくれた。 「ありがとう、おばあちゃん」  おばあちゃんの手作りのおはぎは、ほっぺがおちるほどにおいしい。とってもあまいおはぎを、ぼくたちはよろこんで食べた。  でも…… 「あれ、柿は?」  いつもだったらおはぎと一緒に出てくる柿が、今日は出てこなかった。すると、おじいちゃんは、少しけわしい顔になった。 「今年は柿はとれんかったんじゃ」 「え、どうして?」  おじいちゃんの柿の木には、毎年たくさんの柿がなるのに……。とれなかっただなんて、考えられなかった。すると、おじいちゃんはため息をついた。 「アライグマに、やられたんじゃよ」 「アライグマ?」 「そうじゃ。だれがすてたのか知らんが、このあたりにも住みつきよってな。わしの柿だけじゃない、向かいのゲンさんとこのミツバチの巣箱もこわされたとなげいておったわ」 「ミツバチの巣箱まで!?」  ゲンおじいさんは、おじいちゃんと仲良しだ。去年も遊びに行って、ハチミツを一びんもらった。そのハチミツは、パンにかけたらとってもおいしかったのに……。 「そうか。じゃあ……来る時に見たのは、アライグマなのかも知れんな」  お父さんがつぶやいた。 「え、あれって、アライグマだったの? タヌキじゃなくて?」 「しっぽに黒いしまはあったかい?」  おじいちゃんにたずねられて、思い出した。確かに子連れのあの四匹の動物のしっぽには……黒い横じまがあった。 「うん、あった」 「それじゃあ、それはタヌキじゃなくてアライグマじゃな」 「ふーん、そうなんだ」  しっぽの横じまがタヌキとアライグマを見分けるポイントらしい。 「でも、アライグマなんて日本にいたんだ?」  レンタルビデオで借りたアライグマが主人公のアニメは、外国が舞台だったような気がした。すると、今度はお父さんがけわしい顔をした。 「本当は、日本にいてはいけない動物なんだ」 「日本にいてはいけない?」  日本にいてはいけないのに日本にいる? どういうこと? 「アライグマは日本人がペットにするために、アメリカとか、外国から連れてきたんだ。でも、飼うことができずにすてる日本人がいた。だから、アライグマが日本に住みつくことになったんだ」 「え、そうなの?」  僕はここに来る時に見たアライグマの親子の、きょとんとこちらを見る黒いまだらもように囲まれた目を思い出した。 「あんなにかわいいのに、すてるんだ」 「それが、かわいくなんかないんじゃ」  おじいちゃんは、おでこに深くしわをよせた。 「アライグマはのぅ、凶暴じゃし、悪いことばかりする。畑のものや果物の木は食い荒らすし、小屋はこわしてニワトリを殺しよるし、ミツバチの巣箱は荒らすし。ここらへんの者をみな、苦しませとるんじゃ」 「そうなんだ……」  あのかわいい顔からはそんなこと、想像もつかなかった。 「じゃから、つかまえるために、みんな、ワナをしかけとるんじゃ」 「え、ワナをしかけてるの!?」  ワナという言葉に、ぼくはとたんにワクワクした。ぼくが住んでいる所には木や草や自然はなくて。ワナで動物をつかまえるなんてこと、したことはなかったんだ。 「そのワナ、見ていい?」  ぼくは、胸をはずませてたずねた。でも、おじいちゃんはまだけわしい顔をしていた。 「ダメじゃ」 「えっ、どうして?」 「これはワシらにとっては生活のかかっとることじゃ。遊びでやっとるんじゃないんじゃ。誰にでも気軽に見せれるもんじゃない」 「ふーん、分かった……」  いつもはやさしいおじいちゃんの、ちょっときびしいその言葉を聞いて、ぼくはそれ以上ねだることはしなかった。

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