ぼくは大輔兄ちゃんに連れられて病院に行った。病院ではすぐにきず口を洗い、お医者さんに消毒をしてもらった。そして、体温をはかったり、注射をうたれたり……。 「アライグマはね。どんなばいきんを持っているか分からないから」 と何回もお医者さんに言われた。 一通りのことが終わった時。大輔兄ちゃんが、ぼくのおじいちゃんとお父さんを連れてきた。大輔兄ちゃんの目には涙がにじんでいた。 ぼくは次の日もその次の日も病院で抗生剤の注射を打たなければならない。そして、自分の家に帰ってからも家の近くの病院で、しばらくは診察を受けないといけなかった。 アライグマは狂犬病という、かかってしまったら絶対に治らずに死んでしまう病気とか、アライグマ回虫っていう寄生虫をもっていることもあるみたいだ。お医者さんのお話を聞いて、アライグマにかまれるということがどれだけこわいかを実感し、ぼくは涙ぐんだ。 でも……アライグマにかまれるということの本当の怖さと悲しみを、その時のぼくはまだ知らなかったんだ。 「こぉの、ばかもの! アライグマを遊び半分でつかまえてはいけないと、あれほど言っただろう!」 家に戻ったぼくと大輔兄ちゃんに、おじいちゃんのかみなりがおとされた。 普段、おじいちゃんはこんなに怒ることはない。ぼくたちのしてしまったことがどれだけ大変なことなのか、ぼくの身にしみて鼻のおくがツーンといたくなった。でも……そのいたみでぼくは思い出した。 「あの……アライグマは?」 ぼくは、蚊のなくような小さくて弱々しい声でたずねた。 「アライグマは……にがしてくれたんだよね?」 するとさっきまであんなに怒っていたおじいちゃんは、急に言葉をつまらせた。 「ふん……アライグマのことなんざ、お前は気にせんでいい!」 おじいちゃんはそう言って、家のおくへ引っ込んだ。そのただならぬ様子に、ぼくの胸には不安が押しよせた。 「健吾……ごめんな。俺があんなことしたせいで」 おじいちゃんの家からの帰りぎわ、大輔兄ちゃんは目を涙でうるませながらあやまった。 「いや、そんな……。ぼくが言い出したことのせいで。本当に、ごめん」 ぼくも涙で、大輔兄ちゃんの顔がにじんで見えた。そんなぼくに、大輔兄ちゃんはうつむいて言った。 「あのな、健吾。あのアライグマは、多分……」 「えっ?」 言葉の続きが聞き取れないぼくを見て、大輔兄ちゃんは力なく笑った。 「いや……おじいちゃんがにがしてくれたんだってよ、あのアライグマ。だから、お前は今日は、安心して寝てろよ」 「そっか……よかった。ありがとう、大輔兄ちゃん!」 「おう……じゃあ、またな!」 ホッと安心したぼくを見て……大輔兄ちゃんはにげるように、家からかけ出して行った。
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