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 駅近くの裏通り。路上に蓋を開けて置かれたギターケース。ところどころ擦れたような傷があるそれに、財布から取り出した百円玉を入れた。  日陰でも暑い。街の雑多な匂いを乗せた生ぬるい風がその人の髪を揺らし、通りの向こうへ抜けて行く。  演奏が終わった。周りからまばらな拍手が起こる。彼女の弾き語りを聴いていた小さな人の輪が崩れてゆく。 「そこのきみ。待って」  その場から去ろうとした僕の背中に彼女の少しハスキーな声がぶつかった。立ち止まって振り返る。

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