アルヒのシンギュラリティ
その街には、太陽と雲がある - 1

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 サンクラウドは、街のほとんどの機能が人工知能を持ったロボットの力で成り立っている。  昔は人間がしていた仕事を、今はロボットが担ってくれているのだ。事務仕事も、車の運転も、店の店員もそうだ。  家庭でも、ほとんどの家にはお手伝いロボットがいて、人間の代わりに家事をしてくれる。ロボットたちは力仕事や、何かを計算することが人間よりも得意だった。  人間はロボットに仕事を奪われるのではなく、代わりにしてもらうのだ。ロボットの労働で街の経済は回り、人々の暮らしはベーシックインカムにより、最低限の生活が保障されている。誰もが暮らしの心配をせず、自分の好きなことに時間を使うことができた。音楽を作ったり、絵を描いたりして暮らす人も多い。  その昔、人工知能ができる前、人々はいつか賢くなったロボットが人間を征服してしまうのではないかと想像した。意志を持つロボットたちが、人間を支配する世界。  そんな恐れを抱いた人間は、最悪のシナリオを避けるために、ロボット法という法律を作った。  その法律に記された三つの規定は、今もこの世界における最も重要なルールとなっている。  まず、一つ目の規定により、すべてのロボットの人工知能には、人間を傷つけることができないプログラムがなされている。  二つ目の規定により、人工知能を持つロボットの製造は、クオリー社のクオリー工場以外では禁じられている。  三つ目の規定では、一つ目の規定による、感情を持つロボットたちへの行動の制限の代わりに、ロボットたちに自由になる権利を与えている。ヘブンの存在のことだ。  サンクラウドと大きな壁で隔たれた先には、ロボットだけが入れる、プレーンズという街がある。その街では、ロボットは人間のために働く必要がない。ロボットはロボットだけで、自分の暮らしを大切にして生きていくことができる。まるでロボットにとって天国のような場所……知らずのうちに、そこはヘブンという愛称で呼ばれるようになった。  クオリー工場で作られたロボットは、生まれてから十年、サンクラウドの街で人間とともに生活する義務がある。そのあとヘブンに行くのかサンクラウドにとどまるのかを、自分の意思で選び、十年目の最初の一週間で申請しなければならない。人とともに暮らし続けるか、ロボットたちだけで暮らすのかを選択するのだ。  ロボットたちはそれぞれ違った性格を持っている。穏やかな者もいれば、気性の荒い者もいる。人間と一緒に生きていきたいと願うロボットだけでなく、人間のために働くことが嫌で、早くヘブンに行くことを切望する者もいるのだ。  クーは後者で、人間のことが嫌いなようだ。だからジョーンズを怒らせるようなことを言って、今日のような事件につながった。

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