アルヒのシンギュラリティ
その街には、神様がいる - 6

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 目を覚ますと、自分の部屋のベッドで横になっていた。 「……気がつきましたか?」  ロビンがアルヒの顔を覗き込みながら、穏やかな声を出した。 「あれ……どうして?」 「どうしては、こちらのセリフです。どうしてこんなことをしたんですか?」  アルヒは自分がしていたことを思い出した。父の部屋のロックを外して、部屋に入ろうと試みたこと。そして……。 「……二重セキュリティー」 「そうです。お父様は用心深いお方です。まさか坊ちゃんがそれに引っかかることになるとは、思っていなかったでしょうが……」  もしかすると、セキュリティーの構造が簡単に見えたのは、侵入者を油断させるためだったのかもしれない。 「……お父さんは?」 「セキュリティーから連絡が行ったようで、お父様から私に連絡がありました。坊ちゃんのいたずらだったと聞いて、胸をなでおろしたようです。扉が開かれてないことは知っていたようですが……」  そのロビンの話を聞いて、アルヒは心の中でショックを受けていた。  勝手に父の部屋に入ろうとしたことは悪いことだったかもしれない。だけど、自分が仕掛けたセキュリティーが原因で、息子が怪我をしたかもしれないのだ。それでも父は、息子を心配することもなく、家にも帰ってこなかったという。 「どうしてこんなことをしたんですか?」  ロビンのその質問に対して、言いたいことはたくさんあった。だけどそれ以上に、アルヒの胸の中は虚しい思いでいっぱいだった。 「……ごめんなさい」  それ以外は何も言葉にならなかった。  ロビンもなかなか次の言葉を発さなかった。その様子がいつもと違って見えて、アルヒはロビンの抱いている感情が、心配というものだけではないように見えた。まるで、言えない何かを胸に隠しているみたいだった。 「あの……いえ」  何か、言いたいことがあるなら言って欲しい。 「……お父様の気を引きたかったのですか?」  ロビンはそれを誤魔化すように、別の言葉をアルヒに投げかけたようだった。  しかしその言葉は、ロビンが思う以上に、アルヒにとっては悔しいものだった。いかにも子どもっぽい理由である。だからアルヒは、それを否定するためにも正直に話そうと思ったのだった。 「実は……調べていることがあるんだ。工場のことなんだけど」 「工場の、何をです?」 「中の見取り図とか、詳しく知りたいと思って」 「……そんなことでしたら、このロビンめに聞いてくださればよかったのです。長い間あそこで働いていたのですから」 「……ええ?」  予想だにしない言葉に、アルヒは目を丸くした。 「私が工場で働いていた頃に、お父様が私を気に入って、それでお手伝いに選んでくださったのですから。工場の知っていることなら、なんでも話しますよ」 「そっか……。だからロビンは、昔お父さんとホープ博士が一緒に働いていたことも知ってたんだ」 「その通りです」  アルヒは初めて、家族の一人であるロビンがこの家にやって来た経緯を知ったのだった。 「ですが、どうしてクオリー工場の見取り図などに興味が?」 「実は……」  アルヒは学校であったことを説明した。クーを助けるためにヘブンの写真がいること。そしてそのために、知の塔にのぼりたいこと。 「まずいですよ。そんなの、いくら坊ちゃんの頼みでも、私は協力することはできません」 「工場の内部と、セキュリティーのことを少しだけ教えてもらえたら、それでいいんだ。あとはなんとかするから」   アルヒは手を合わせてお願いした。 「どうせ、知ったところで諦めるしかないですよ。中は監視ロボットが歩いていますし、換気ダクトや下水は手薄とはいえ、センサーがたくさんありますからね」  うんうんと頷くアルヒのその目は、すでに爛々と輝いていた。

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